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笹岡 拓也さん

文章で笹岡 拓也の世界を伝えられたらいいなと考えてます。 キャラクターたちがイキイキとした物語を書いて、読んだあと何か残れるような作品にしていきます。

性別 男性
将来の夢 自分の作品を多くの人に読んでもらうこと
座右の銘 生きているだけで幸せ

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契約カップル

18/03/01 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:0件 笹岡 拓也 閲覧数:452

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卒業式を終えた私たちは誰もいない教室で契約完了の手続きをしている。
「杉咲、今日までありがとう」
彼は満面の笑みで私に感謝を告げる。教室の窓から入ってくる風で貼ってあった掲示物がめくれ上がり音を立てる。私は彼に掛ける言葉を必死で探していた。


ちょうど一年前のある日、彼は私に告白をした。それは突然のことで驚きが隠せず、恥ずかしさのあまりほとんど考えずに断った。しかし彼は引き下がらなかった。
「頼む!一年でいい!俺と付き合ってくれ」
彼はどうしてそんなことを提案してきたのか理解できなかった。私の頭では処理が追いつかない。それでも彼は話を続けた。
「俺のこと好きにならなくてもいい!もちろんタダとは言わない!俺と一年付き合ってくれれば報酬を払うから」
私は彼のことを嫌う理由がないほど知らなかった。すなわち好きになる理由も全くない。ただ私は彼と付き合うことで報酬が貰えるというのに食いついた。
「報酬?何貰えるの?」
「何でも!叶えられるものなら何でも叶えてあげる」
私は彼のことをほとんど知らない。しかし一年間彼と付き合えば、報酬として何かしら願いを叶えてくれるなら、付き合ってみてもいいかなと考えた。
「分かった。付き合ってあげる」
偽りのカップルになっただけなのに、彼ははしゃぐように喜んだ。


「じゃあ杉咲、報酬の件だけど」
私たちは契約完了後の報酬の話をし始める。彼の顔からは笑顔が消えていた。
「何でもいいんだよね?」
「もちろん。俺は嘘つかないよ」
あの日から私たちは普通のカップルのように付き合った。手を繋いで帰ったことも、帰り道の途中で公園に寄ったことも、休日一緒に映画を観に行ったことも。メールでのやり取りだけじゃなく、電話でやり取りをすることもあった。はじめのうちはそれが嫌だったのに、次第に私の心の中で彼と一緒に過ごす時間が楽しいものへと変わっていった。気づけば私は今日この日が来るのを恐れていた。そう、私は知らないうちに彼のことが好きになっていたんだ。
「じゃあさ…私とこれからも付き合ってほしい」
私は彼に告白をした。何でも叶えてくれるという報酬を使って。きっと私は、あの日彼から普通に告白されていたら好きにすらならなかった。でもあの日、彼が必死に契約の話を持ち掛けてくれたから、数え切れないほど楽しかったことが訪れた。付き合い方はおかしいけど、それのおかげで私は彼を好きになれた。だからこそ、契約を終えた今だからこそ、こらからは普通のカップルになりたいって思えたんだ。

「それでいいの?本当に?」
彼は困った顔をしていた。もしかしたら嫌なのかもしれない。彼は私と付き合って、契約の形だったけど好きでいてくれたと思っていた。毎日楽しそうにしてくれたし、普段から「好き」と伝えてくれていたから。ただそれさえも彼の中では業務の一環だったのかもしれない。
「い、嫌ならいいの」
私は彼の顔を見てすぐに伝えた。仮に何でも叶えると言っていても、彼が嫌な気持ちで付き合うのは私も嫌だから。
「嫌なわけない!」
彼は先ほどまで困っていた顔をしていたのに、今はハキハキとした顔で答えた。そして私のことをギュッと抱きしめてくれた。
「報酬は支払われました」
彼はそう言って私の顔を見た。今まで見たことがないほどの笑顔を浮かべていた。
「ありがとう」
私は照れながらも了承してくれたことに感謝を伝える。すると彼は大きな溜め息を吐く。その溜め息は今まで一年間溜まっていたのでは?と考えてしまうほど大きかった。
「いやー杉咲の願い事、何でも叶えてあげるって言ったからヒヤヒヤしてたんだ」
彼はニヤニヤしながら私を見て話す。その顔もまた可愛く感じる。
「杉咲から『もう私の前に現れないで』とか言われたらどうしようって思ってたんだよ」
私が彼にそんなことを思うはずがないと言ってあげたかったが、そんな不安の中で私と付き合ってたと考えると言い出せなかった。
「まぁ何でも叶えるつもりだったよ?『高級腕時計が欲しい』とか『海外旅行に連れてって』とか。でもまさか杉咲からの願いが『付き合って』って!超嬉しいし有難いよ!」
本当に何でも叶えてくれるつもりだったんだ。私は嬉しかった。ただ彼が言った「有難いよ!」に引っかかり
「どうして有難かったの?」
と問い掛ける。すると彼はまたニヤニヤしながら
「知りたい?」
と言ってくる。ちょっと癪に触るけど、知りたい願望の方が大きい私は彼にコクリと頷く。
「いやね、本当は報酬を与えてからもう一回、杉咲に告白しようと思ってたんだ。今度は契約なんかじゃなく、ちゃんと付き合ってって」
きっと今、私は顔を赤らめて彼の話を聞いているのだろう。私が違う報酬を受け取っていたら倍の報酬が手に入ったことに気づいても後悔はなかった。だって彼が本当に嬉しそうに笑うから。


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