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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
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猫の集会

18/03/01 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:4件 そらの珊瑚 閲覧数:338

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 今宵は新月。極細の金の筆で、さっと書いたような細い月が出ていた。
 ささやかな月明り。
 暗闇に、それでも時折光るいくつもの小さな目玉。海に近いここ、かもめ橋に猫たちが集まってきた。

「みにゃさま、本日の議題は報酬です」橋の欄干の上に座った大きな白猫が言った。
「ほうしゅうって?」仔猫が母猫に訊いた。
「働いて得るもののことよ。つまり、猫にとったら人間にもらう食べ物のことかしら」母猫が答える。
「なんだ、エサのことか」白黒ぶちが言う。
「いやねえ、エサじゃなくてお食事ってお言い。ノラは下品で嫌」トラ猫が眉をひそめた。
「ふん。家猫は気楽でいいねえ。なんもしねえでも人間がエサくれんだからさあ」
「失礼ね。家猫だってちゃんと労働してます。ご主人が寝坊してたら、ほっぺをポカってなぐってやらなきゃならないし」
「あとは?」
「ご主人が、ひもで出来た変なおもちゃをひらひらさせてきたら、興味ありそうなふりをして、遊んでやんなきゃならないし。写真を撮る時は、可愛い顔をしてやんなきゃならないし。結構くたびれるのよ」
「でもエサ……じゃなかった、食事はうまいもん食べてんだろ」
「カリカリばっかりよ。もう飽きちゃったわ。あんたたちノラこそ、漁師のおじさんたちに魚のおこぼれ貰ってるんでしょ」
「まあね、まだ生きてるやつもいたりしてさ。そいつをがぶっとね」
「美味しそう!」トラ猫がごくりと唾を飲み込んだ。
「へー家猫にも野生が残ってるとは驚きだ」
「ふん。ノラは気楽でいいわね。港で寝てて、魚もらえるんだから」
「いやいや、ノラだって働いてるぜ。よそからやくざな流れモンが来てやしないか、なわばりをパトロールしたりな」
「そんなの、ただの散歩じゃない」
「へへ、そうともいうがな。あとな、最近この町が猫町って呼ばれるようになって、観光客が増えただろ、そういうやつらがカメラ向けてきたら、にらみつけてやるんだ」
「あんた、ただでさえ怖い顔なのに」
「それがさあ、結構うけんだよね、かわいーなんつって」
「人間って不思議な生き物ねえ」
「インスタグラムでいいね! が、たくさんもらえるんだと。まあ、それも報酬といえるかな。いいね!は食えないがな」
 トラ猫が欄干で爪とぎを始めた。家の柱でそれをやると飼い主に怒られるので、外でやるようにしているのだ。
 ノラ猫も家猫も人間のそばで生きているかぎり、人間からなんらかの報酬をもらって生きている。
「あら、エリザベスさん、こんばんは。飼い主さんのおじいさんが亡くなられたって聞いたけど、今、どうなさってるの?」
「お隣さんに引き取ってもらえて、そこで余生を過ごしてるわ」ばあさん猫が答えた。チンチラの血が混じったふさふさだった彼女の毛も、今はすっかりかさが減り、しぼんでみえた。
「それは良かったわね」
「ええ。でもね、時折無性に寂しくて。わたくし、ご主人のこと好きだったから」
「センスもよろしかったわねえ。エリザベスなんて名前をつけてくれるくらいだもの。私なんて『トラ』よ。一応女なのに、ひどいと思わない? ちょっとあんた、笑いすぎよ」
 ノラの白黒ブチが腹をかかえて笑っている。
「なんでお亡くなりになったの?」
「心臓がね、突然止まっちゃったみたい。家のリビングで倒れた時、わたくし、そばにおりましてね、急いでお隣さんへ走っていったの。それでそこの家の奥さんに必死にしゃべったんだけど、なかなか通じなくてね。あたりまえよね。猫語は人間には理解できないもの。でもね、諦めずに続けたわ。そのうち奥さんもただ事ではないと思ったのね。一緒に家へ来てくれたの。でもね、時間がかかり過ぎっちゃった。ダメだったの」
 沈黙を、さざ波の音が埋めていった。
「……そうだったの。でも、エリザベスさん、頑張ったわよ」
「ありがとう。わたくしの最後のお仕事になったわ」
「その仕事の報酬はもらえなかったんだろ、残念だな」白黒ブチが話に割り込む。
「そうでもないの。寂しくなると眼を閉じるの。するとご主人の『トラ』って声が聴こえるのよ。そしたら胸の中がふわっと温かくなるの」
「まあ素敵、それはとっても美しい報酬ね」トラはうっとりとする。
「そうか? おいらは食えるモンの方がいいけどなあ、ふわあ」白黒ブチはあくびしながら大きくのびをした。
「そろそろ解散にゃーふわあ」欄干の上の白猫が言った。
「ふわあ」「ふわあ」あくびは次々と猫たちに伝染していく。
 議題が出されるも、結論が導かれることがないのはいつもの事だった。

 東の空が少し明るくなり、夜の闇に紛れていた猫たちのそれぞれの模様を明らかにさせていく。
 生きるということが命ある者の仕事ならば、その光は空からの報酬なのだろうか。



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このストーリーに関するコメント

18/03/20 冬垣ひなた

そらの珊瑚さん、拝読しました。

ノラ猫も家猫も、人間の周りでのんびり暮らしているように見えて、こういうやりとりがあるのかなと思うととても微笑ましいですね。悲しい事があっても飼い主の愛情が残る猫は幸せなのでしょう。ネコ集会の幻想的な雰囲気が素敵で良かったです。

18/04/05 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、ありがとうございます。

時々のらちゃんを見かけると、アフレコのように勝手に頭の中で台詞を言うのが趣味です、笑
「わしになにか御用でっか?」とか「じろじろ見てくんな」とか。
たいていは嫌われてぴゅーっと逃げていきますが。
言葉は通じなくても、きっと愛情は通じるのでしょうね。

18/04/24 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

猫ちゃんたちが集っているといったい何を話しているのか気になります。
あれで猫にも、それなりの社会性があるんでしょうか?
猫の恋の季節か? 最近、近所で猫の鳴き声がうるさいです。

18/05/02 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。

ノラ猫ちゃんたちにも、いろんな猫事情があったりしそうです。
猫語がわかったら面白いでしょうね。

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