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浅縹ろゐかさん

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レンタルフレンド

18/03/01 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:0件  浅縹ろゐか 閲覧数:252

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 友達がいないということを、後ろめたく感じる人は全くいなくなっていた。私はしがない会社員だ。職業は、レンタルフレンドである。レンタルフレンドというのは数年前に生まれた職業で、依頼者に対し私達のような社員が友達として派遣されるサービスだ。依頼者は希望する条件を提示し、それにマッチングする友達を紹介する。こうした職業が生まれた当初、疑問視する声も当然上がった。友情を金銭でやり取りするのは、如何なものかという訳だ。その後、レンタルフレンドは世間に認知され、そういった声も自然となくなっていた。
 これまで様々な依頼者の元へ友達として派遣された。レンタルフレンドを利用する理由を聞くことは規則で禁止されているので訊ねることはしないが、自ら話す依頼者というのも多かった。友達が欲しい、いじめられていて辛い、子供の頃に勉強漬けで友達と遊べなかったので友達と遊んでみたい、様々な理由があったが皆寂しさを抱えているのに違いはなかった。そうした人々の心の寂しさを埋めて、私は対価として金銭を手にしているのだ。
 今日の依頼者は30代の女性だった。1日友達として、彼方此方へ出掛けるというのが依頼内容である。年齢の近い私が、レンタルフレンドとして選ばれた訳だ。待ち合わせ場所として指定された駅前に15分前に到着する。改札近くの柱に背を預けて、メールで到着した旨を連絡した。土曜日の昼時ということもあって、駅は混雑している。今日の行き先を確認していると、女性が声を掛けてきた。
「こんにちは、ヤマモトさんですか?」
 細身の女性は肩まで伸ばした艶やかな髪の毛が印象的だった。大人しそうな見た目をしている。
「はい、ヤマモトです。ワタナベさんですか?」
「はい。今日は1日よろしくお願いします」
 簡単に挨拶を済ませて、今日の予定を確認する。事前に打ち合わせた通り、ランチをして買い物に行くことになる。ランチをする店は、ワタナベさんが予約をしている。2人並んで歩きながら、互いの呼び方を確認する。
「普段何て呼ばれていますか?」
「リナと呼ばれています」
「では、リナと呼びますね。私のことは、ナナカと呼んでください。タメ口で大丈夫ですよ」
 それに照れたように笑うと、その音を確かめるように私の名前をリナは呼んだ。互いに顔を見合わせてクスクスと笑いながら歩いた。目当ての店に到着し、リナが店員に予約をしていた旨を言うと席に案内された。窓際のテーブル席は、街並みを見渡せるようになっている。木漏れ日が優しく差し込む店内は、静かなピアノの旋律が流れていた。ランチのコースが決まっているようで、料理がテーブルへと運ばれてくる。
「ナナカはこういう料理好き?」
「私、好き嫌いないの。この店、リナはよく来るの?」
「ううん、初めて来た。来てみたかった店なんだけど、1人だと勇気がなくて」
 苦笑するリナは、料理を口に運ぶ。1人で食事をすることができないという人も、今迄沢山いたなあと私はぼんやり思い出していた。最後に運ばれてきたデザートと紅茶に舌鼓を打ち、店を後にした。この後は、ショッピングモールへ買い物に行くことになっている。
「リナは何が欲しいの?」
「写真立てが欲しいな」
 雑貨店に入り、様々なものを見て周る。2人で話しながら、リナの趣味に合うものを探した。どうやらリナはシンプルなものが好きらしいので、幾つかピックアップして並べて見せた。様々な人に接するという職業柄、どういう物が好みなのか見分けるというのは私の得意なことだった。リナはその中から、額縁が白レザーの写真立てを選んだ。買い物を終えて、他の店も見て周ったが、その後リナは何か買うことはなかった。夕方になり駅へと戻り、最後の挨拶をする。
「とても楽しかったです。いい思い出になりました」
「本日はありがとうございました。またのご利用お待ちしています」
 リナは嬉しそうに笑っていたので、私は安心した。今日の仕事も滞りなく終わった。後は、会社へ戻り報告書を書くだけである。改札を潜りこちらを何度も振り返るリエに、お辞儀をした。姿が見えなくなる迄見送り、会社へと向かう。夕方の電車は人も疎らだ。会社のデスクでパソコンを立ち上げ、報告書に今日の内容を書き込んでいく。人の心に入り込むのが得意なので、私はやはりこの職業が向いている。人々の心の隙間を埋め、仮初めの友人でいることが私には気軽で丁度良い。人と深く関わるというのが、私は苦手なのだ。1日なら私は友達として過ごせるが、基本的に人間が嫌いである。気軽な人間関係で金銭が得られるのだから、これ程に簡単な仕事は他にないと思う。
 夕陽が差し込む社内は橙色に染まっている。夜が明ければ、私の人間関係はリセットされる。それに安心できるのだ。私は偽りの友情を売り、それで日々を生きている。それが空しいとは思わない。


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