若早称平さん

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COLORS

18/02/21 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:2件 若早称平 閲覧数:276

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 初めて盗みをした時のことはもう覚えていない。掛け算よりも先にスリの技術を仕込まれた俺達にとってそれはただの通過儀礼以外なんの意味もなかったからだ。
 人から物を盗むことが悪いことだと知ったのは十二歳になった頃だった。この施設で育った子供達はみんな同じだと思う。親の顔を覚えていないのもみんな同じだ。それが当たり前で世界中の子供が同じだと思っていた。

「聞きました? 柊の話」
 仕事を終え、施設の壁にもたれて、足下の草花をぼんやりと眺めていると、椚が煙草に火をつけながら俺の隣に並んだ。
「ああ、懲罰室に連れてかれるの見たよ」
 俺達の施設は表向きは児童養護施設だが、裏ではマフィアと繋がる犯罪組織だった。物心つく前から様々な犯罪技術を教育され、仕事を与えられる。仕事の対価は暖かい食事とベッドだけ。柊は組織に黙って個人的に仕事を受け持ったことで罰せられた。
 バカっすよねと椚が笑う。
 外の世界を知らなければ自分が不幸だなんて思わない。同年齢の子供達が談笑しながら学校に通う姿を見かけるようになった俺には柊の気持ちもよく分かる。
「出掛けるんすか?」
「散歩に。夕食には戻る」

 この街は中央を横切る大きな川を境に富裕地区と貧困地区に分断されている。貧困地区側からは工場の煙や排気によって空の色さえも濁って見える。沈む夕日もどす黒い。
 仕事を終えた後、川べりを歩くのが日課になっていた。組織に使われる奴隷のような日々の中で、この時間だけが唯一人間らしくいられる気がしていた。目の前で杖をついて歩く少女から男が盗み取った財布を、すれ違い様に取り返したのは、その時間を邪魔されたという不快感からだったのだろう。
「財布、気をつけろよ」
 後ろから声を掛けた。振り返った少女の目には光が宿っていなかった。
「ありがとうございます。私おっちょこちょいで。危なかったぁ」
 深々と頭を下げる少女を無視し、帰ろうとした俺の腕を彼女が掴んだ。
「助けてもらった上に図々しいとは思うんですけど。私いま道に迷っていまして、よろしければ連れて行ってもらえませんか?」
 日没まではまだ少し時間があった。彼女の目的地である病院が施設の近くだったこともあり、俺の腕を掴んだまま並んで歩いた。川辺から水鳥が一斉に飛び立った。
「あなたのお名前は?」
「……悪人だ」名乗る必要はないと思った。
「悪人さんは良い人ですね」彼女が微笑む。
「大抵の人は私のことなんて無視するか、からかうかどっちかです」
「たまたまだ。この時間じゃなければ無視していた」
「私、目が見えないんです」
「見れば分かる」
「生まれた時から見えないんです」
「それは可哀想に」
「でも私にとってはそれが普通なので、そんなに不幸だとは思ってないんですよ」
 俺が笑ったのを感じたのか、彼女は怪訝な顔をする。
「同じようなことを考えてる奴がいると思って」
「でもね、もうすぐ手術を受けられるんです。実は宝くじが当たりまして」
 当たりくじを見せようとしているのか、彼女が財布を取り出す。
「そういうのは人に言わない方がいい」
「誰かにしゃべりたくて。悪人さんは良い人だからいいんです。あれ?」
 俺の方を見ながら財布を探る彼女の顔色が変わる。慌てぶりから察しはついた。宝くじがなくなっているのだろう。スリの男が彼女の財布から抜いたとすればくじのことを知っていたということだ。そういう輩には心当たりがあった。
「ここまでくればもう一人で行けるだろう。着いたら待ってろ」
「どうしてですか?」
「ひと仕事してくる。その報酬を俺に払うためだ」
 怪訝そうな顔の彼女に背を向ける。夕食には戻るという椚との約束は果たせそうになかった。

 個人的に仕事を受けることは禁止されている。しかし組織に罰せられる前に天罰が下ることになるとは思ってもみなかった。
 仕事自体はすぐに片付いた。しかし最後の最後でヘマをしてしまった。撃たれた腹を押さえ、右足を引き摺りながら病院へ辿り着いた時にはもう空がうっすらと明るみを帯びていた。
「悪人さん、怪我をしてるんですか?」
 足を引きずる音を聞き分けたのか、それともただの勘なのか、彼女の隣に座った俺に心配そうな声を掛ける。
「大丈夫だ。それよりも、これを」
 取り戻した宝くじを胸に抱き、彼女は立ち上がって何度も頭を下げた。
「もしも迷惑でなければ、私は一生をかけて悪人さんに恩返しをしたいです」
「迷惑だ」
「じゃあ報酬は……」
「あんたの目が見えるようになったら、夕日がどんな色に見えるのか教えてくれ。施設の壁際の花や、川べりの水鳥も、あんたから見た色が俺の見てる色と同じなのか、それを教えてくれ」
 彼女がうなずく。
「それと……少し眠るから、夜が明けたら起こしてくれ」
 彼女の肩にもたれ、ゆっくりと目を閉じた。


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このストーリーに関するコメント

18/02/24 文月めぐ

拝読いたしました。
「悪人」と名乗った少年ですが、人間、誰もが優しさを持ち合わせているのかもしれませんね。
「夜が明けたら起こしてくれ」という台詞、ステキな余韻が残りました。

18/02/24 若早称平

文月さんコメントありがとうございます!
締め方考えててたまたま良い台詞が出てきて良かったです。
かなりの文字数を削ったので色々と説明不足かなと思ってたのですが、評価ポイントもありがとうございます(^-^)

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