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小峰綾子さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 笑う門には福来る

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探偵事務所のアルバイトの報酬

18/02/17 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:0件 小峰綾子 閲覧数:313

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「これが今回の報酬となります」
所長が封筒をカウンターの上に置く。
「今どきこんな形でお給料を渡す機会もないから、新鮮だよね」
と言って笑う。
「そうですよね。わがままを言ってしまいすみませんでした。ありがとうございます。」

ここは都内のとある探偵事務所。僕の本業はサラリーマンなので、副業で収入を得ていることがバレると色々と面倒そうなのだがという相談をしたところ、所長が配慮してくれて(以下略)な形の受け取りとなった。

ここでアルバイトをしていた友人が別の会社に就職したため、急きょ繋ぎの人員が必要になった、という成り行きでこうなった。仕事自体にちょっと興味が沸いたのももちろんある。加えてある思惑が頭をよぎり、二つ返事で引き受けたのだ。

正直仕事内容は神経を使う上面倒なことも多く、非常に疲れたし副業でやるには時間の制約もあり、大変だった。しかしそれ以上に、普通の仕事では触れることがないであろう情報を得たり、ピリピリするような緊張感を味わうのもそれはそれで楽しかった。まあもちろん、所詮新人アルバイトである僕ができることなんて些末なことに過ぎない。調査対象者の行動を追って報告したり、チャンスがあれば写真を取る、または営業のふりをして相手の会社に電話をかけるぐらいだ。それ以上のリスクのある業務は慣れた社員が行う。

この事務所は所長も女性で、浮気・不倫の調査に定評があるので今回もそれ関係の作業が中心だった。あとは何らかの事情で連絡が取れなくなった人の所在を突き止めてほしいという依頼も意外と多いようだった。

所長が表情を引き締めたと思ったところで声をかけてきた
「さて、あなた自身の依頼に関しての話をしたいのですが」
奥の応接室に通され、ソファに座るよう勧められる。

所長は先ほどの新人アルバイトに相対する表情と違って、依頼人と面談するモードに切り替えたようだった。
僕は今、アルバイトから依頼人いう立場に変わったのだ。
「佐倉さんが探していた人に関してですが、実はそれほど苦労することなく、所在や素性を確認することが可能でした。」
驚きはしなかった。むしろ所長を騙してまった気になり、罪悪感さえ覚える。

「先方は大変喜んでいて、すぐにでも会いたい、可能な限り都合はつけると言っております」
相手が期待通り反応してくれたことにニヤつきそうになる。警戒して知らないふりをされたり、拒否されたりすることも想定していたからだ。
所長は続ける。
「実は今もここからそう遠くないところで待機していて、佐倉さんがこの後にお時間が取れるなら、当事務所または指定の場所に来てもらうこともできる手筈になっています。いかがなさいますか?」
なるほど、所長なりのサプライズ的な感じだろうか。
「分かりました。ご尽力感謝します。一つ確認をしても良いでしょうか」
「はい、もちろんです」
「相手には、僕の所在や連絡先、さらにここの探偵事務所の場所、僕がここでアルバイトをしていることなど一切教えないでほしいという条件は今後も有効でしょうか」
「もちろんです。守秘義務がありますので、依頼人の方から希望がない限りは一切先方に個人情報を話すことはありません」
「よろしくお願いします。では、ここから少し変わった依頼内容となるのですが・・・」

10分後、僕は事務所を後にした。

所長は今頃、先方に電話をして近くの喫茶店まで出向くように要請しているはずだ。会うのは所長ではなくまた別の担当者だそうだ。調査自体スムーズにいったことと所長による特別サービスのおかげで請求された金額はかなり安かった。僕は受け取ったばかりの封筒からそのお金を払い、残りは調査対象者である先方にそのまま渡してほしい、と言ってある。あとは「どの面下げて会いたいだ、金ならやるからとっとと帰れ」と僕が言っていると、このまま伝えてほしい、というのがこちらの依頼だ。

父が僕に会いたがっているという話は母からたびたび聞いていた。大学入学の際に、援助したいという申し出もあったそうだ。今はきちんと働いている、過去に僕や母にしたことを少しでも償いたいと。

今回わざわざ探偵事務所に依頼するなんて面倒な手続きを踏んだのは、母を通したくなかったし、こちらの連絡先などの情報も一切伝えたくなかったからだ。
僕が2歳の時にいなくなった父。所在は教えないくせに金の無心はたびたびしてきたようで、あろうことか母はそれに応じていた。まあ、父も母も若かったし子供には言えないさまざまな事情があったのだろうとは思う。しかし、それは大人どうしの事情であって僕には特に関係はない。

僕が探偵事務所で得た一番の報酬は、あの人に復讐できたという事実だろう。


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