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麗蘭さん

性別 女性
将来の夢
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自ら動けば、きっと世界は

18/02/11 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:0件 麗蘭 閲覧数:95

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夕日が辺りを照らす黄昏に、ハルトはあてもなく高架下を歩いていた。持っているカバンは教科書がパンパンに入っており、重みから時折肩からずれそうになる。冬の寒さが身にこたえるが、ハルトは家に帰る気にはなれなかった。
「だって、どうせ家に帰っても、父さんも母さんもいないんだ…」
ひとりぼっちの空間はハルトにとって苦痛だった。ハルトも中学生になり、両親の仕事の多忙さは理解している。しかし、だからといって不安にならないわけではなかった。
「もしかして、2人とも僕のこと、そんなに好きじゃないのかな…」
仕事を言い訳にして、自分から逃げているのではないだろうか。自分は必要とされていないのではないだろうか。そういった考えがどうしても脳内に浮かんできてしまう。はぁ、とため息をついた、ちょうどその時だった。
「お前さん、ちょっといいかね」
「だ、誰!?」
後ろから聞こえてきた声に驚き、振り返る。するとそこには、黒いフードをすっぽりと被った老婆がいた。
「あたし?あたしは魔女さ。あたしの頼みを聞いてくれるなら、その報酬になんでも望みを叶えてやろう」
ハルトはすぐに、このおばあさんは精神が少しおかしくなってしまった人なのだろうと理解した。しかし、だからといって無視してしまうのもかわいそうだと感じた。自分も親にすら愛されない“かわいそう”な人間なのだ。ハルトはその老婆にシンパシーを感じ、話を聞くことにした。ちょうど暇をもて余していたということもあった。
「いいよ。頼みって?」
「ああ、なに、簡単なことさ。困っている人を10回助けてやってほしいんだよ」
「それがおばあさんの頼み?」
「ああ」
老婆はしっかりと頷いた。ハルトは首を傾げる。
「でも、それでおばあさんに何の得があるの?」
「いいからいいから、ほれ、行っといで。あたしはいつでもここにいるから、終わったときにまた来な」
ハルトは不思議に思いながらも、その日から人助けを始めた。困っている人なんてそういるのだろうかと最初は思っていたが、じっと人を観察すると、思った以上にいることが分かった。ハルトはある時は荷物を持ってあげ、ある時は落とし物を探し、見つけてあげた。人助けを繰り返すたび、ハルトはある変化を感じていた。
──なんだか、前より『さびしい』って思うことがなくなったような…。
両親と過ごす時間が増えたわけではない。しかし、「ありがとう」と人に感謝されることが増えるにつれ、ハルトは自分の心が満たされていくのを感じた。そしてとうとう、ハルトは困っている人を10回助けた。その日の同じく夕暮れ時に、ハルトは再び老婆の元を訪れた。
「おばあさん、頼まれていたことは終わったよ」
「そのようだね。それで、望みはなんだい?」
そう聞かれてハルトは2、3回、目をまばたいた。そういえば、そんなことを言われていたような気がする。
「なんでもいいの?」
「ああ、なんでもいいぞ」
ハルトはもう目の前の老婆のことを、頭のおかしい人だとは思わなかった。老婆から発せられるオーラは、ただの人間のものではなかったからだ。ハルトは1度口を開きかけ、閉じた。そして少し間をおいて、再び口を開いた。
「望みはないよ。だって、僕は今のままで充分だから」
そう言ってくしゃりと笑う。本当は、両親といる時間を増やしたかった。だが、たくさんの人に感謝される中で、ハルトは自分は必要とされているのだと感じられた。そして、自分が動けば、世界が変わることを知れた。
──母さんと父さんに、僕の思いを伝えよう。もっと一緒にいたいって伝えてみよう。きっと、2人とも分かってくれる。
そんなハルトを見て、老婆はにっこりと笑った。
「じゃあ、報酬はこれにしてやろう」
老婆はハルトを抱きしめ、こう言った。
「あたしの頼みを聞いてくれて、ありがとう。大丈夫、あんたはちゃんと愛されてるよ。だって、こんなに素敵ないい子なんだからね」
その言葉は、まるで魔力を持っているかのようにハルトの体に染み渡った。ハルトの目から涙がこぼれた。
「うん…うん、ありがとう、おばあさん」
ハルトは老婆を強く抱きしめ返した。


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