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葉月三十さん

葉月三十で「はづきみそ」と読みます。 日本文化と漫画が大好き。 もそもそと書いていこうと思います。

性別 男性
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『お金』がない国

18/02/07 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:1件 葉月三十 閲覧数:368

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 夢のような国だ。
 その国にはお金が存在しない。
 とある国、そこではもう百年もの間、お金というものが使われていなかった。
 人々はその国を理想郷と呼び、沢山の旅人がその国を訪れた。
 今日もまた一人、とある青年がその国に入国した。
「お若いの、観光ですか?」
「そうですね、旅をしています」
 旅人は世界各国を回っていた。現実社会に辟易したのだ。故の自分探しの旅だった。
「朝御飯は食べたかい? 今パンが焼けたんだ、食べていかないか?」
「いいのですか?」
「もちろん。この国に居るうちは、君も家族だ」
「家族……ありがとうございます。お言葉に甘えて」
 出会って数分の老人の家で朝食を摂り、
「まあまあ、若い子がうちの国に来るなんて珍しい。ほら、これを土産にあげるわ」
 町ですれ違う度に土産をもらう。
 コーヒーブレイクを共にして、農家から色々な物をもらった。
 のどかな国だ。人々はみな、自給自足の生活をし、足りないものは物々交換で成り立っている。平和で、温かい国だった。
「お兄さん、異国の人ってほんと?」
 木陰で休んでいたとき、旅人は少年に声をかけられた。どうやらお使いの帰りらしく、少年は手に一杯の荷物を持っていた。
「そうだよ、旅をしているんだ」
「へえ! お兄さん、僕、聞きたいことがあるんだ」
「なんだい?」
 この国の人間はみな、同じように人懐っこい。少年もまた、柔和な笑顔で、
「異国には『お金』っていうものがあるそうですね。その、『お金』って何なんですか?」
 難しい質問だ。旅人は少し考えて、
「例えば、りんご一個と米一俵を交換しては、割りに合わないだろう? だから、りんごにはりんごの、米には米のそれぞれの価値をつけられるのがお金だ」
「えーと、つまり?」
「りんご一個は一ドル、米一俵は三百ドル、って要領さ。ドルっていうのがお金の単位だよ」
 やはり少年には少し難しかったようで、うんうんと唸り始める。
 そもそも、お金の概念がない国の人間には理解できないものに違いない。
「お兄さん、もうひとつ聞いていい?」
「いいよ」
「『お金』は、どうやったら手に入るの?」
「それはね、働くと貰えるんだ」
「働く?」
「うん。そうだな、人のために何かをして、その見返り――報酬として貰えるもの、かな」
 噛み砕いて説明したつもりだが、果たして少年に伝わっただろうか。
 旅人の懸念をよそに、少年はにっかりと笑った。
「それってきっと、僕たちの国で言う『ありがとう』とおんなじものだね」
 ハッとする。
 いつからだっただろう、人間が「ありがとう」の価値を見失ったのは。

 その国には、お金が存在しない。だが、その国を訪れた人間は、豊かな心を取り戻し、自国へと帰り行くのだ。


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このストーリーに関するコメント

18/02/20 凸山▲@感想を書きたい

拝読しました。
貨幣の概念を伝えるのは確かに難しい、と御作を読んで強く感じました。人が2人いれば経済が成り立つ、と在学時に教わったものですが、その手段としての貨幣、また無形物であるサービスへの対価としての報酬はより体系的な理解を伴うはずなのに、社会では一般的に理解されている。コンテストテーマとしてとても興味深いものだと再認識できました。

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