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広田杜さん

マイペースに書いています。 Twitter @hirota_mori

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白魚の手

18/02/06 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:1件 広田杜 閲覧数:439

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 私の飼い猫が私に贈り物を持ってくるようになったのは最近のことだ。
 食器にドライフードを足そうとしていたときのこと。猫専用ドアの開く音がし、彼が帰ってきた。名前をしらすという真っ白な彼は、口に雀の死体をくわえていた。私は小さく悲鳴を上げると、外に持っていくようにきつくしかった。しらすは反省するように頭を下げ、しぶしぶ外に雀を持って行った。
 翌日のこと。読書をしている私の足元にしらすが持ってきたのはねこじゃらしだった。昨日とは趣向が違うお土産に驚きはしたものの、私にとって必要なものではない。そうしらすに告げると、しらすは小さく首を傾げた。
 しらすはどうして私に贈り物をするようになったのだろう。私はしらすの食器に缶詰のを餌を盛りながら考える。しらすは私の家の庭に迷い込んできた野良猫だった。
 庭の隅で震えていたしらす。拾ったときは骨ばっていて壊れてしまいそうだった小さな体が、今では贅肉を蓄え七キロほどの大柄な猫になった。私は悲しい別れを経験したばかりで、誰かの温かさを欲していたから、しらすがここに来てくれたことは運命のように感じていた。しらすは大好きなシラス味の餌をぺろりと完食すると、満足そうに前足で顔を洗った。
 次の日のこと。散歩に出たしらすがなかなか帰ってこなく、私は外に探しに出た。しらすは家から三軒ほど離れた空き家にいた。私が声をかけると、しらすはこちらを向く。しらすの前にはコンパクトが落ちていた。
 しらすにどうしたのかきいてもただ首をかしげるばかりだ。私はコンパクトを拾い上げると眺めてみる。古く、使い込んだ形跡があるが、丁寧に磨かれていて、大事にされていたのだとわかる。かわいらしい色合いや少し小さいサイズから、女児用のものだと思った。
 しらすが私を見上げ、ゆっくりと歩きだす。私はしらすの後を追いながら、もう一度コンパクトを見た。私の手に入らなかったものが、色を付けて頭の中で回っている。しらすの声にはっと顔を上げると、四歳くらいの女の子が私の手の中のコンパクトをじっと見ていた。
「こんにちは。あなたのものなの?」
 私が声をかけると、女の子は少し緊張気味の表情で小さく頷いた。私はコンパクトについた土ぼこりを軽く払うと、女の子に手渡す。女の子は目を見開きコンパクトを見つめると、私の顔を見上げ笑った。
「ありがとう、お姉さん」
 少女は私に背を向けて走り出す。私につかめなかった未来を背負って。立ったまま動けなかった私の足に、しらすが頭をこすりつけた。私と目が合うと、遠慮がちに小さく鳴く。
 今日のお土産は気に入らなかったの?そんな声が聞こえてきそうな瞳だった。私は彼を抱き上げると鼻を合わせる。私はたくさんのものを失い、またたくさんのものを手に入れた。そのひとつは、間違いなくこの子がくれたぬくもりだ。
「ありがとう。これからも一緒にいてね」
 お礼も報酬もなにもいらない。君がのどを鳴らして側にいてくれれば。私はしらすと一緒に、家までの短い帰路を歩いた。


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このストーリーに関するコメント

18/02/20 凸山▲@感想を書きたい

拝読しました。
穏やかな作品で、落ち着いて読み通すことができる個人的に非常に好みの作風でした。しらすの『贈り物』も、『悲しい別れ』も、『私につかめなかった未来』も、その詳細はわかりませんが、主人公が前向きであろうとするラストが印象的でした。

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