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戸松有葉さん

ショートショート:小説投稿サイト「小説家になろう」で1001作以上、本サイト「時空モノガタリ」で入賞複数。 他、長編ライトノベルやエッセイなども。コメディ得意。 Amazon Kindle(電子書籍)http://amzn.to/1Xau7kMで活動中。(←URLは、Kindleストアを著者名「戸松有葉」で検索した結果。)代表作は『ショートショート集厳選集』とラノベの『二次元最高美少女』。 ツイッターは@tomatuariha3lb

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将来の夢 積極的安楽死法案
座右の銘 常識を疑え

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いざ鎌倉

18/02/05 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:0件 戸松有葉 閲覧数:67

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『いざ鎌倉』

 一大事が起きたことや、警察・消防が有事の際現場へ駆け付ける心構えのことを指すことわざだ。
 しかし考えてみればおかしい。鎌倉という地名を指定しているが、大事が起きるのは鎌倉とは限らない。確率的には低確率。特に「有事の際現場へ駆け付ける心構え」の意味なら、現場を放棄して鎌倉へ観光にでも向かってしまっている。
 鎌倉が何故大事を指すのか、そして何故鎌倉へ向かわねばならないのか。そこにはことわざの元になった、歴史的背景があった。



 一度目の元寇は、威力偵察の面が強かったためか、退けることができた。しかし次はそううまくいかないだろう。備えておかねば、日本は侵略される。
「しかしなあ」
「ああ、だよな」
 脅威を目の当たりにし、国防の意味では楽観を持たない武士たちだったが、大きな不安を抱えていた。
 ずばり、報酬のことだ。
 基本的に戦とは、勝てば相手の財産を奪える、つまり利益になるものだった。だから準備に金もかけられる。しかし元寇は他国が海を渡って襲ってくるものであるため、勝ったところで得るものがない。直接利益が得られないとなれば、棟梁から報酬を貰う形になるはずだが……そんな前例はないため、誰もわからないのだった。
「信憑性の高い噂では、侵略から守った英雄でも、報酬がないばかりか労いもなく、余計なことをしたと罰さえ与えられたこともあったらしい」
「ま、マジか」
「うわぁ、この国ならありそうだわ。千年以上経っても、それくらいやってそう」
 武士たちの不安は募るばかり。国防の意識だけあっても、金がなければ何もできない。
「ここは直接、報酬について約束を取り付けて来よう!」

「「「いざ行かん、鎌倉へ!」」」

 武士たちは大挙して鎌倉へと押し寄せて行った。
 なお「武士たち」としているが、この時代に職業軍人はおらず、大半は戦える男連中のことだ。彼らが地元を留守にすれば、守る者がいなくなり、土地も女子供も奪ってくれと言わんばかりの状態となる。もちろん、このタイミングで元が攻めて来たらあっさり侵略される。
 しかし元寇の脅威と金の心配で頭が回らなくなり、鎌倉へ向かうという大事な用しか考えられなくなるのは、致し方なかっただろう。
 さて、鎌倉幕府と話し合いである。武士らは約束を取り付けねばならず必死で、幕府側も無下にはできなかった。下手すればこの場で内乱が起きてしまう。
 かといって元寇を回避する選択は既に失われている。元からの使者を問答無用でぶっ殺しているため、今更外交努力など遅すぎる。
 やむなく幕府は、こういう約束をした。
「功績に応じて報酬を払う。報酬は惜しまない。見事元を打ち破れば、その分報酬も弾む」
 報酬は約束された。しかし同時に、元寇に備えるだけでは、あるいは戦うだけでは、無報酬という厳しい条件である。
 武士らの一部は不満だったが、これ以上いい条件は引き出せそうにない。それに武士らには、未熟ゆえ根拠のない自信もあった。
「借金をしてでも備え、勝てばいいのだ」
 最後はそういう結論に達した。
 こうしてきっちり備えた末、二度目の本格的な元寇は訪れた。
 とはいえ、元軍も世界最強の戦力ではない。海を渡るため、主戦力の騎馬隊はいない。兵も、侵略先にして日本に近い朝鮮の兵が多かった。船は突貫工事で欠陥があり、兵の士気も低く――元に嘘を吐いて日本行きを諦めさせようとしたほど――、そもそも侵略には兵力が相手の何倍も要るのにそこまでではない。
 そこへ、台風の襲来である。元軍は大打撃を受けた。
 日本の武士たちも強い。なにせ不退転の決意だ。既に借金をしているのだから後には引けない。絶対に勝ちまくって功績をアピールせねばならない。
 かくして、二度目の元寇も追い払うことに成功した。日本は守られたのだ。
「これだけの活躍だ、借金など軽く返せる報酬が得られるだろう」
 武士たちの誰もがそう思っていた。
 しかし――。幕府からの回答は、斜め上を行っていた。

「今回勝てたのは、朝廷の祈りで神風が起きたからであり、お前らは働いていない。よって約束通り報酬は無い」

「…………」
「…………」
「…………」
 改めて言葉は要らなかった。
 苦しい生活のなか、牙を磨き続け、日本中で倒幕気運が高まるのを待ち――、

「「「いざ行かん、鎌倉へ!」」」

(了)


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