無銘さん

競歩程度の速度では仕上げたい牛歩筆持ち。 呆れるほど気まぐれに駄文を書きます。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 仕事は早く、立ち回りは汚く。

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追憶

18/01/29 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:1件 無銘 閲覧数:257

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ある年の正月の日のことだ。例年通り昔馴染みの奴らと初詣に行った足である人の墓参りに行き、夜な夜な酒を飲みながら談笑していた。
「今日も晴れてたな。」
「こうも毎年晴れてると思い出しちゃうよね。」
カップルの二人がふと呟く。
「玲雄も彩もその辺にしな。もっと悲しい人がそこにいるだろう?なぁ秀。」
酔いどれの女が煽るように振った。
「あまり来ないから瑞稀らの顔を見る度に思い出すよ、俺は。」
「それはそれとしていつでも私に乗り換えてくれて構わないんですよ?」
皮肉っぽく返したところに、綺麗なブロンドの女子が誘うように抱きつきながら言った。
「歌子、手洗いに行きたいから離れてくれ。」
俺はそう言って部屋を出た。ただでさえ暖房が効いてて酒が回っているのに抱きつかれては暑くてかなわない。それに―。
「あ!私に抱きつかれてドキドキしちゃったんですね?!」
歌子のやつ、完全に回っているな。そう思いながら台所の水道で軽く水を飲み表に出た。
「なんだ、いないと思ったらこんなところにいたのか。」
「コレはこういう所で飲むほうが美味しいわ。ねえ優奈?」
「アンタ酒飲めるようになって嬉しいからって飲みすぎるんじゃないよ、梓。」
さっきまでいた部屋の外、縁側の所で、二人の女子が並んで熱燗を啜っていた。
「それよりアンタはどうして出てきたの?この時期の山奥じゃ雪しか見えないのに。また優歌見てあの子の事思い出したとか?」
「別に。酔い冷ましに来ただけだ。」
優奈に一発で見抜かれてしまった。俺が外に出た本当の理由を。
「ふーん…。まぁ特に何ってわけじゃないけど、後ろを向くような想い方ならスッパリやめちゃった方が身の為だよ」
「あら優奈、貴方の口からそんな言葉が出るようになるなんて。」
「アンタみたいな諦めも性格も悪い女には私くらいしか相手がいないっていうのにそういうこと言うの?」
思いの外早く酔いが冷めてしまった上に二人の痴話喧嘩が始まってしまったのでそそくさと退散した。
一度部屋に戻って日本酒を徳利2本分貰い、台所で熱燗をつくる。
盆にお猪口と徳利とを乗せ、風呂に向かう。洗い場で軽く汗を流し外に出るとそこにあるのは3人程度は入れる大きさの露天風呂。空が近く、これに入る為だけに来る価値があるとも言い切れる。
一度床に盆を置き、湯につかる。そして盆を湯に浮かべ、お猪口に注いだ熱燗をぐっと飲み込んだ。
「―全くどうしてあいつらはいつも俺に気を使うかな。」
一度胃に落ちたアルコールが体に染み渡る湯の熱で気化され、心にとどめていた気持ちとともに口から漏れる。
そもそもこうして元旦から墓参りして騒ぐのも、もう6年も前に亡くなった歌子の姉、優奈の双子の優愛の、それ以上にその死を乗り越えられていない俺のためのようなものだ。
お前は悪くない。優愛はきっと後悔していない。それよりもお前の姿を見せてやれ。そう言わんばかりにこうして毎度誘ってくれる。
そんなあいつらには感謝しているが、それよりもただもう一度会いたい気持ちの方が強い。
「スッパリやめられたら苦労しないんだがな…」
先ほどの優奈の言葉をふと思い出しながら口まで湯に浸かり空を眺める。
そうしてうつらうつらしていると、意識がふと落ちた。
気がつくと海沿いの小高い平原に生えている大樹の根元にいた。そして目の前には優愛の顔があった。どうも膝枕されているらしい。
「おはよう、よく寝てたね?」
目を覚ました俺に気づいた優愛は読んでいた本を閉じ、懐かしい柔らかな笑顔を浮かべながら言った。
「景色を見てたんだと思うけど、寝ちゃってたから。まだ寝ててもいいんだよ?」
混乱している俺に、優愛は淡々という。
「いや―」
それよりも、これは夢か?俺は風呂にいたはずだ。
「今日はやること全部終わったんだからのんびりしようよ。」
頭を愛おしそうに撫でながら甘えるように言う。
「ああ―」
この少し陰った笑顔には逆らえない。昔からそうだった。
「優、お前は生きているのか?」
抑えられない疑問を投げた。
「…私はここにいるよ。」
これは夢だが夢ではない。そう言われた気がした俺は、ずっと聞きたかったことを聞いた。
「お前は、あの日を後悔しているか?」
「―全然。それよりも時間みたい。秀、『またね』。優歌を―みんなをよろしく。」
優はそう言うと俺の目に手を被せた。意識が遠のき―目が覚めると歌子の顔があった。
「お兄さん、大丈夫ですか?」
「あぁ、寝てたみたいだな。」
手洗いと言う割に長かった俺を心配して探したらしい。
「おい秀、お前持ってった酒何か曰く付きだったらしいぞ」
部屋に戻ると瑞稀が話し始めた。どうやら飲むとあの世のそれが見られるとか。
「成程な。」
あの時の直感は正しかったらしい。最後の言葉を思い出し、少し前を見て歩けるような気がした。


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このストーリーに関するコメント

18/02/03 凸山▲@感想を書きたい

拝読しました。
亡き人に思いを馳せる、という構成はぐっとくるものがありました。終始、酔いの中にいるような主人公の覚束なさがテーマに合っているとも思いました。一方で、冒頭で複数の登場人物が一気に登場するので少し混乱しました。また、場面の説明も残念ながら見当たらず、イメージし辛いようにも感じられました。

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