1. トップページ
  2. 無重力爺ちゃん

むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

投稿済みの作品

4

無重力爺ちゃん

18/01/29 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:6件 むねすけ 閲覧数:844

この作品を評価する

――今日占いで寿命をみてもらってきたよ。
 爺ちゃんが独り言のように話し始めるのは大事な話を切りだすいつもの癖だ。
――当たるって評判の占い師なんだ。スターフィッシャーズは今年も最下位だとさ。
 スターフィッシャーズが最下位になると爺ちゃん落ち込んで仕事しなくなるからな、当たりませんように。
――水晶でも手相でもないんだなぁ。髪の毛を一本くれってさ。その占い師。俺の髪の毛どうしたでしょうか? 爺ちゃんクイーズ。
 爺ちゃんクイズは僕の退屈な毎日のスタッカート。当てると外国の紙幣を一枚くれる。若い頃に爺ちゃんが集めたもので、今には存在しない国の物もあるから貴重だ。円に替えたらしばくと言うのでどうしようもないんだけど。
 占い師、髪の毛、どうする。僕なら絶対にしたくないこと、と考えてみる。
 蝋燭で燃やして匂いを嗅いだ。
――せーいかい!! やるな、少年。出世するぞ。後で部屋においで。
 やった。でも、オエ。
――その占い師のみたてによるとだな、俺に残された寿命は後八年と七か月だと。
 爺ちゃんが今七十七だから、八十五歳か。
 十分だと思う? それとも百まで生きたかった?
――いや、そんなことはいいんだ。これで明確になったことがあるって話だ。俺は後八年七か月以内にやり残したことを全部やらなくてはいけない。そういうことなのだ。
 ああ、またあの話だ。母さんの言うあの口癖と同じ。「私お父ちゃんと新婚旅行でハワイ行ったきりやから、もういっぺんだけ海外旅行してみたいわー」耳に何百回とすりこまれてコダマしている言葉。爺ちゃんのはこれだ。「飲みたい酒を全部飲まずに末期の水は喉を通らん」
――飲みたい酒を全部飲まんことには、末期の水が喉を通ってくれるはずがないんだ。お前たちが困ることになるんだぞ。
 爺ちゃんに何百回と聞かされた幻の酒の話。
――俺は養老の酒もクリアしたし、千年生きたクリオネを閉じ込めた氷のオンザロックもクリアしておる。
 爺ちゃんが言うことは残念なことに全て真実らしいと、父さん母さん、親友のリツさん、それに残された写真が物語る。嘘であればどれだけ安心するだろう。世界をどれだけ確実なものだと思えるだろう。残酷な世界に怯えるよ、僕は。
――残すはひとつ。
 残すはひとつ。無重力状態で浮遊する球形の褐色を喉チンコにダイレクトキャッチすること。ちょっと待ってよ爺ちゃん。これ、酒の飲み方じゃん。クリオネ氷は百歩譲って味に影響あるとして、これは地上で重力にケツ据えて飲むのと味変わらないだろ?
 何度も言って悪いけどさ、爺ちゃん。そのお酒は?
――ウイスキー、バーボン、褐色であればなんでもよし。
 味一緒じゃない? 地上で飲んでも。飲みたい酒のラストの一個としてどうなのさ?
――少年!
 ユキだよ、僕の名前。爺ちゃんは僕のことをユキと呼ばない。付けたかった名前を却下されて拗ねているらしい。スターフィッシャーなんて名前、父さん母さんが許すはずないだろ。許してたら僕絶対グレてたし。
――いいかい、味なんてな、意味のないことだ。残るのは奇跡的な偉業と写真だ。口づての賛辞だ。あの男は凄い奴だ。飲みたい酒の全部をクリアした男の中の男だ。それが大事なのだ、少年。実際俺は酒なんてそんなに好きじゃない。味だけなら三ツ矢サイダーでいい。夏の暑い日ならポカリスエットに勝る飲み物なしだ!
 これだもの。爺ちゃんはカッコつけなんだよ。もう。
――そこでだ少年。俺の体のことも考えて、ぼちぼち実行の頃合いかと思うんだな。爺ちゃん一生のおねがーーい。
 爺ちゃんの一生のお願いは七十七の爺ちゃんの最初の僕へのお願いだったから、僕は約束する。
 わかった。無重力爺ちゃん。決行だね。オッケー。僕と爺ちゃんの立てた親指が、星になった。わけないか。
 
 無重力体験は飛行機内で行われた。
 ベテランパイロット二人が、写真にどっちが入るかで揉めていた。
 飛行機が上昇する。自由落下の合図にジャンケンで勝った副操縦士が口笛をくれた。
 浮き上がった爺ちゃんは、ひっくり返っている僕に、
――少年、爽快なもんだな、でっかくなれよ。
 と、涙が出そうな言葉をくれた。
 爺ちゃんの内ポケットにスキットル。中の褐色はウイスキーかバーボンか、はたまたエンジンオイルか、なんて。
 無重力の中、天使の真似でおどける爺ちゃん。
 スキットルの蓋が開けられる。
 球形の褐色が、機内にぶぅにん、ぶぅにん。
 副操縦士が、イエアー、とカメラを構える。その位置だと、あなたが一番大きく映るよ。と、僕はグルグル回りながら思っていた。
 無重力爺ちゃん。飲みたい酒は全部飲んだね。でも、髪の毛占いは外れてくれると、僕は嬉しい。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

18/01/30 haru@ソラ

むねすけさんの小説は、いつも心がほっこりするものが多いと感じています。

18/01/30 むねすけ

haruさんコメントありがとうございます
憧れの作家さんの作風がほっこりとしたものなので
自分も読んでくれた人がほっとしてもらえる物語を書きたいと思っています

18/02/03 文月めぐ

『無重力爺ちゃん』拝読いたしました。
爺ちゃんと僕の語り口に心が温かくなりました。

18/02/03 むねすけ

文月めぐさん、コメントありがとうございます
こういう会話台詞は書いてて楽しく、ドンドンノッて書くことかできました
今回はおもいきりあったかい話を目指しましたので
心が温かくなったとのお言葉とても嬉しいです

18/02/17 待井小雨

拝読させていただきました。
リズムとユーモアがたっぷりの文が素敵です!「僕の退屈な毎日のスタッカート」の一文にセンスを感じます。
主人公と爺ちゃんの関係性が暖かくて愉快で好きです。

18/02/17 むねすけ

待井小雨さん、コメントありがとうございます
書きながら楽しむことができたので、リズムをのせることができたのでしょうか
リズムって文章で一番大事だと思っているので、評価頂いて嬉しいです
毎日のスタッカート、あそこは一度別の音楽用語を使って、いや、やっぱこっち!と改めて、どや!と顔を決めた箇所です。とても嬉しいです。

ログイン