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吉岡 幸一さん

性別 男性
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寂しい男の代表

18/01/26 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:0件 吉岡 幸一 閲覧数:273

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 朝、目覚めると高級ホテルの一室にいた。昨夜も飲み過ぎたせいか頭が鐘をつかれたように鳴ってまぶたも重たかった。
 隣には見知らぬ女が裸で寝ている。二十歳くらいでモデルのように美しい。念のため心臓に耳をあててみると動いていない。
 テレビドラマではよくあるお決まりの場面だ。この後は身に覚えのない男は慌てて部屋を出てエレベーターに乗って逃げていく。エレベーターの監視カメラにはばっちり写っていて、その後捕まってしまうというパターンだ。ついでに部屋にライターでも落としていけば完璧だ。
 だがこれはテレビドラマではない。僕は役者ではないしテレビの関係者でもない。女にしても俳優でもアイドルでもないだろう。テレビしか話し相手のいない僕は芸能人にはけっこう詳しいのだ。
 さて、どうしたものだろう。とりあえず酒でも飲んで考えるとしよう。ちょうどテーブルにはウイスキーの瓶が置かれてあるではないか。僕はガウンを羽織ると椅子に腰をおろした。グラスに三センチほど注いでストレートのまま飲むと喉がやけそうだった。アルコールが胃に染みて胃壁が溶けそうになる。
 まずはホテルのロビーに電話した方が良いのか、直接警察に電話した方がいいのか。それとも変装して逃げてしまおうか。
 だいたいなぜホテルにいるのだろうか。昨夜は馴染みの立ち飲み酒場で飲んでいた。店を出てウイスキーの瓶を振り回したところまでは覚えているが、それから先の記憶はない。もしかしたら酒場にいた女性客の一人かもしれない。ホテルに連れ込んでしまったのか。いや、酒場にいた女性全員を口説いて全員にふられた記憶はある。いつものことだ。
 これで僕の人生は終わった。警察に捕まって殺人者として刑務所に入れられてしまうだろう。
 酒を舌で転がしながら考えていると、いきなりドアが開き白衣を着た男がウイスキー瓶を握りしめて入ってきた。
「昨夜はいかがでしたか。楽しめましたかな」
 男は側に寄ってきてベッドの上の女を眺めると首を傾げた。
「おや、燃料が切れたままのようですな」
 死んで横たわっている女を見ても男は動じることがない。意味不明なことを言っているが、頭のおかしな人のようではなかった。
「あなたは誰ですか。それにこの死んでる人は……」
「どうやら覚えていないようですな。昨夜、このホテルの前で知り合ったのを」
 男の説明によると、ホテルの前で酒飲み相手を探していた僕と男がぶつかったらしい。ぶつかった拍子に僕は抱えていたウイスキーの瓶を落として割ってしまい、そのお詫びにと男はホテルの部屋と横たわっている品物を僕にあげたそうだ。
 あげた、人間を・・・・・・。言葉通り男はお詫びの品物として女を「あげた」と言った。
「服も着せてない。燃料も入れられてない。やれやれもう一度説明しますね」
 男は部屋の隅のあるクローゼットを開けると数種類の女の服がかけられているのを見せた。引き出しには下着類も入れられてある。
「ここに着るものはありますので、あなたの好きな服を着せてあげてください」
 そう言って、女のもとに行くと抱え上げて壁に寄りかからせて座らせた。ウイスキー瓶の蓋をはずすと女の顎をあげて口を開けさせ、ウイスキーを流し込んだ。
「これが燃料なんですよ。すぐに起動しますので」
 男が言い終わる前に女は瞼を開けて首を左右に動かしはじめた。そして僕と目が合うとニッコリと微笑んだ。
「一緒にお酒を飲みませんか」
 女は言った。裸でベッドに座っていることにも、見知らぬ男が側にいることにも驚いていなかった。
「どういうことですか。これは」
「だから、ロボットなんですよ。独り寂しくお酒を飲んでいる男性のために開発したお酌ロボットです。話し相手もできる機能もついていますし、あなたが望むだけお酒に付き合ってくれますよ。昨夜言ったでしょう」
 当然覚えていない。それに生身の人間と間違うほどの高性能なロボットが開発されていたなんて知らなかった。もはや何とかバンクのヨッパーくんレベルのロボットではないではないか。
「たかがウイスキーの瓶一本のお詫びでこんな高級なものをいただいてもいいんですか」
「はい、寂しい男性の代表としてぜひご活用ください。その代わりと言ってはなんですが実験・・・・・・いえ、それはまた後日にでも」
 白衣を着た男が笑いかけた口を閉じて逃げるように帰っていった後、僕は残された女に服を着せて抱きかかえると椅子に座らせた。
 女は滑らかな動きでウイスキーの瓶を取るとグラスに注ぎはじめた。
「一緒に飲みませんか。お話しをしましょう」
 女の前に座った僕はグラスを取ると一気に飲み干した。アルコールが体中に染み渡る。
 とりあえず、これで寂しい男の代表からは逃れられそうだ。それにしても白衣の男は何を言いかけたのだろうか。


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