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笹岡 拓也さん

文章で笹岡 拓也の世界を伝えられたらいいなと考えてます。 キャラクターたちがイキイキとした物語を書いて、読んだあと何か残れるような作品にしていきます。

性別 男性
将来の夢 自分の作品を多くの人に読んでもらうこと
座右の銘 生きているだけで幸せ

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下克上

18/01/26 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:0件 笹岡 拓也 閲覧数:328

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「お前はいつもいつもダメなんだ!そんなだから契約もロクに取ってこれないんだぞ!」
俺は部長にいつも怒られている。もう慣れてはいるものの、四六時中怒られていると気が滅入ることがある。
「まぁ気にするなよ」
同期は俺の哀れな姿に同情し、優しい声を掛けてくれる。しかしその優しい声がまたダメな奴だと言われている気がしてならなかった。

ただ今日の仕事が終われば、俺の人生に光が射すことだろう。そう、今日は仕事終わりに先輩の送別会がある。その送別会で俺は、部長に酒をたくさん飲ませてしまおうと考えているのだ。なんせ部長は下戸だ。そんな部長に酒をたくさん飲ませることで酔潰れる。そして酔潰れた部長を辱めを受けさせる。とりあえず見っともない体たらくな裸を写真に収めておくか。それに女性社員に手を出させることも可能だろう。多少こちらが女性社員に手を出すよう仕向けても、ヘベレケな部長はきっと記憶に残らない。その決定的な瞬間を写真に、いや写真じゃなくて動画の方がインパクトがある。
これで部長の未来は真っ暗さ。今まで散々俺にしてきた仕打ちを返す時が来た。まさに下克上だ。

先輩の送別会は華やかに始まった。先輩に送別の品を渡したり、思い出話に酔いしれた。みんな酒の力もあってか、普段よりも笑い声が高くなっている。この雰囲気なら部長に酒を勧めててもバレないな。
「部長、さぁお酒どうぞ」
「お前はバカか。俺は酒が飲めないんだぞ?それも分からないで、勧めてんのか?だからダメなんだよ」
みんなが楽しい雰囲気でいる中、部長は普段と変わらず文句をタラタラ言ってくる。空気を読まない部長に俺は苛立ちを覚え、切り札として用意しておいた言葉を伝える。
「えー!先輩の送別会ぐらい、少しは飲んでもいいんじゃないですか?大丈夫ですよ!先輩も部長に飲んで欲しいですよね?」
無理矢理遠くにいる先輩に声を掛けると、酔って気分の良い先輩は適当に「うん」と返事をする。その先輩の言葉に部長は否定することができず、仕方なく俺が注ぐ酒を口にする。

下克上のはじまりだ。酒を口にした部長は案の定、顔を赤らめて倒れる素ぶりをする。
「部長、まだ一杯っすよ?もっと飲みましょうよ」
「そ、そうか?じゃあ...」
俺は日々の鬱憤を晴らすため、部長に酒を何度も注ぐ。下戸の部長は、どんどん弱っていく。その姿を見て俺は腹の底から笑ってやった。今まであれだけ偉そうなことを言って威張り腐っていた部長が、こんな哀れな姿に変わってしまったなんて。楽しい、楽しい、楽しい!俺は先輩の送別会なんてどうでも良かった。部長が酔い潰れた姿を見て楽しくて仕方なかった。
ただ部長が酔い潰れ反応も無くなってしまった。これでは女性社員へのお触りはできない。少し歯止めが効かなかった俺は反省する。完璧な仕打ちができないじゃないか。
それでも俺は体たらくで無様な裸姿だけは写真に収めた。この写真はとっておきの時に使ってやろう。

楽しい送別会はあっという間に終わった。部長はタクシーに乗らされ家に帰宅。こんな部長を見ることができた俺は満足だった。明日からまた頑張ろう。
次の日からしばらく部長が休みを取った。酒を飲み過ぎたことで具合を悪くしたらしい。
部長がいない職場は幸せでしかない。このまま部長が来なければいいのに。そんなことまで考えた。それでもとっておきの写真を使うことができなくなるのは、少し残念に思う。

「ちょっといいかな?」
部長が来なくなってからしばらくして、俺は社長に呼ばれた。こんなぺーぺーな俺に社長はどんな用事があるんだ?俺は初めての経験で緊張が走った。
「部長の話だけども。君が酒を無理矢理飲ませたそうだね」
社長は開口一番、この前の送別会の話をし始める。確かに酒を勧めたのは俺だけど、無理矢理ではない。
「いやそんなことないです」
「でも部長がそう言ってるんだよ。君がやってることは犯罪紛いだぞ?」
社長は全く俺の話を聞こうとしない。そして社長は俺にボイスレコーダーを渡してくる。
「これを聞いてほしい。部長が常に胸に締まっているボイスレコーダーだ。ここで話してるのは君。間違いないね?」
ボイスレコーダーから聞こえてくる声は紛れもなく俺だった。そして社長の言う通り部長に無理矢理酒を飲ませてると言われても仕方ない言動をしていた。
「君は酒の飲めない部長に無理矢理飲ませたんだ。下手すれば死んでしまう状況だったらしい。残念だが、君は明日から会社に来なくていい」
これは部長からの苦情だ。まさに下戸苦情なんだ。ただ俺は部長の哀れな姿を見たいが為に行っただけだ。殺そうなんて一つも思っていない。本当だ。
「部長も残念だな。君のことを可愛がっていたのにな」
社長は最後、俺に教えてくれた。その一言で俺は取り返しのつかないことをやってしまったことに気が付いた。


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