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浅間さん

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アルコールランプ

18/01/26 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:1件 浅間 閲覧数:263

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 私は無意識に、いつもの赤提灯に入った。さながら、光に群がる虫のようだ。この時間に明かりがついているのは、この辺ではカラオケ店か居酒屋くらいだろう。そこに集る虫たち。黒いスーツだから、カブトムシかクワガタか。いや、飲食店に来るのだからゴキブリだろう。なんて、馬鹿馬鹿しい。
 そう思いながら、カウンターの一番端の席に座り、焼酎を頼んだところだった。
「お隣、いいですかねぇ?」
 話しかけてきたのは、見知らぬ男であった。
「ええ、どうぞ。」
 断るわけがないだろう。他に席が無いのだから。それに、相席というわけでもないのだから、わざわざ許可をとる必要もないだろうに。そう思ったが、ここで何か言って揉めるのも面倒だった。
 脂ぎったフケだらけの髪に、黒の薄汚いジャンパー。顔を見る限り、30代後半といったところか。私と同年代くらいだろう。私の友人はもっと身だしなみを整えているが、きっとこいつの周りには誰も指摘してくれる人がいないのだろう。まさにゴキブリだ。なんて、本人には口が裂けても言えないのだが。私は心の中でクスリと笑った。
「お兄さんは会社帰りですかい?」
 男は図々しく、私に話しかけてきた。
「そうですが、そちらも?」
「いいえ、私はちょっと探し物をしていたもんでねぇ。」
「何をお探しに?」
「ははっ。なんでしょうねぇ。それとお兄さん、ちょっと話し相手になってもらえませんかね?酒を飲むのに話し相手がいないってのは淋しいもんで。」
「私は構いませんよ。」
「では、酒の肴に一つ。」
そう言って、男は一方的に話し始めた。
「これは知人の話なんですがね、その人の苗字は『浮気』って言うんです。『うわき』と書いて『ふけ』と読むんで、小学校でいじめに遭いましてね。ほら子供って何かにつけていじめる理由を作るじゃないですか。」
「はあ。」
「そんで、ある日事件が起きまして、『井田くん』っていじめっこの男子が、理科の実験中にふざけて浮気の方に火のついたアルコールランプを倒したんですわ。浮気は顔を大やけど。失明しましてねぇ、絵を描くのが好きだったもんで毎日泣き喚いたそうです。一方井田くんは転校したんですがね、反省の色がありませんで、他校でもいじめを続けていたみたいなんですわ。底意地の悪い、腐りきった人間でしてね、きっとろくな大人になっていないでしょう。」
 男は酒が入っているからか、それとも元から多弁気質なのか、滝のように罵詈雑言をたれながした。正直、ずっと男の話を聞き続けることは耐えられなかった。私は一度、トイレに行くと言って席を外した。またあの話の続きを聞かなければならないのかと思うと億劫だった。それに、あの粘着質な声はいやに耳にこびりついて不快だったのだ。
 戻ってきた私はさっさと帰ろうと思い、焼酎を飲み干した。
「おや、お兄さんいい飲みっぷりですね。で、浮気はどうなったと思います?あ、クイズ形式にしましょう。」
 私は苛立っていたこともあって、結論を急いだ。
「結局その女の子はどうなったんですか?」
 すると、男は突然食い入るように私の顔を見つめた。しまった。
「妙なことを言いますねぇ。私、一度も浮気が『女の子』だとは言っていないと思うんですが、どうして女の子だなんて思ったんでしょう?」
 男の口角は上がっているが、目は笑っていない。絶対に逃がすまい、そう思っている目だ。
「それは、なんとなく女性のイメージであなたの話を聞いていたからであって。」
「正解です。確かに浮気は女の子ですよ。流石、『井田くん』は察しがいいですね。」
 背筋が凍りついた。こいつから逃げなければ。本能が私にそう命じている。私は店を出て、一心不乱に走り続けた。
 アパートまであと10mというところだった。突然、強烈な目眩に襲われた。こんなところでへたりこんでいる場合ではないというのに。背後からコツコツと足音が迫ってくる。早く逃げなければ、そう思っても体が動かない。視界が歪む。街灯がゆらゆらと燃え、帰路を遮る。
 私はアスファルトに這いつくばりながら進んだ。しかし虚しい努力であった。気がつくと、男は私の真後ろにまで迫っていた。
「弱ったゴキブリみたいですねぇ。」
 粘着質な声が聞こえる。
 男は私の顔の前でしゃがみ、囁いた。
「ところで、アルコールランプの中に入ってるアルコール、メチルアルコールって言うんですがね、体にだいぶ毒みたいでねぇ、飲むと失明するんですわ。『目が散る』から『目散るアルコール』なんて呼び方もありまして。」
 突然、何の話をしているんだ。
 いや、そんなまさか、冗談じゃない。私が席を外したときに焼酎とすり替えたとでも言うのか。
「探し物、見つかりましたわ。妹の仇はとらせてもらいますね。ははっ。」

 意識が遠のく中、男の高笑いだけが聞こえていた。


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このストーリーに関するコメント

18/01/27 文月めぐ

『アルコールランプ』拝読いたしました。
なによりもテーマの受け取り方が面白いと感じました。また、人間をゴキブリに例えている点も。
男の高笑いが本当に聞こえてきそうでした。

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