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れいぃさん

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甘酒日和

18/01/24 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:0件 れいぃ 閲覧数:215

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 鉄格子の向こうに黒い頭が見えている。
 少女は一睡もしていない瞳でとろんと窓のほうを見上げ、天に近い場所からのぞきこんでいる生き物をじっと見た。
「なんだ、カラスか」
 前から見るとわりと間の抜けた顔をしていて可愛い。
 カアとひと声鳴いたのを「なにやってるんだ」と翻訳して、少女は顎を上げて答えた。
「ぶちこまれたんだよ、見りゃ分かんだろ」
 ふうとため息をついて肩の上でふぞろいに揺れている黒髪をかきあげる彼女の名は夜倉ゆりな。
 切れ長でつりがちの瞳に、額にななめにかかる前髪、着崩した制服が、一匹オオカミな彼女のキャラクターをあらわしている。
 大きく開いたイタリアンカラーの半袖シャツにクリーム色のブレザー。壁際に腰を下ろして、短いスカートから伸びている脚を組み換え、化粧を直す姿には殺伐とすさんだ空気がただよっていた。
 彼女がここに入れられたのは、親友のれなのスカートの中を盗撮していた観客の腕をひねったからだ。
 もちろん、「ルール」を破ったのは観客のほうだけど、生徒はそれに直接手を下してはいけないことになっている。
 速やかに警備員を呼ぶべきだった。
 ゆりなの通う良縁四案女学園は、普通の学校とは違っている。
 外部からの「観光」OKで、少女たちの学園生活を部外者が自由に見学できる。
 ただし、それには「ルール」があり、声をかけたり触れたり学校内のものを持ち帰ったり写真を撮ったりする行為は禁止である。
 パンフレットに書かれているにも関わらず、入ってきた男がれなのスカートの中を盗撮した。
 偶然目撃したゆりなはダッシュで駆け寄ってそいつの腕をひねってしまった。
 おかげで今、学園内の簡易牢獄で「反省」を促されている。
「あー、もうやだこんなとこ」
 つぶやいたとき、カラスがもう一度カアと鳴いて飛び立った。
「ん?」
 カラスがいなくなったそこに、黄色いハンカチが揺れている。
「ゆりな、おつとめご苦労」
「れな……」
 どうやって外壁を登ったのか知らないが、はしごでも立てかけたのだろうか。
「何しにきたの?」
「いや、礼を言いそびれたのでな」
 淡いベージュの髪を姫カットにしている親友は、普段から古風なしゃべり方をしている。
「いいのに、べつに」
「よくないわ。そなたの気づかい、うれしかったぞ」
 たとえ規則違反であっても、と降ってくる声が笑っている。
「これはわたしからのお礼の気持ち。受け取ってくれ」
 その言葉に顔を上げたゆりなのくちびるに、不思議な味の水滴が落ちてきた。
「これ……もしかして」
「甘酒だ。三月三日、今日はそなたの誕生日であろう」
 確かにそうだ。
「今日中にここを出て、思う存分いっしょに飲もうな」
 そのために見回りの先生が来たらしおらしい態度をとるように、とれなはアドバイスをくれた。
「……分かったよ」
 こんな変わった学園に入学してしまって、友になったのも何かの縁、いや、運命だきっと。
「だから甘酒、もう一口ちょうだい」
 ねだったゆりなの舌ではなく頭の上から、酒瓶一本分の甘酒が豪快に降り注いだ。


      終
 
 


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