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のあみっと二等兵さん

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魂酒 ─〈想い酒〉─

18/01/24 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:1件 のあみっと二等兵 閲覧数:358

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杯と白い陶器の瓶を抱えて、縁側から空を見上げる。

月は出ていない代わりに、音も立てずに降りてくる雪が、白く染まった庭を、いつもよりも明るくしていた。


「それはそれは丁寧に丁寧に、噛んでらっしゃいましたよ」

近くの神社で巫女が差し出したモノを受け取って来た。この酒は、君が、〈君自身〉を入れたモノだと聞いた。
三年経ったら、俺に渡して欲しいと残した、と。




「……いただきます」


深紅に金の花弁があしらわれた雅な杯に、酒を注ぐ。
これも彼女が選んで用意したモノだと。


一口含んでから、大切に飲み込んだ。


これを君が作ったのが三年前。その後向かった登山で消息を絶った。


「これじゃあまるで……」


俺の喉を通る事を計算していたみたいじゃないか。
君を忘れていないか、試されてるみたいだ。


言葉にはならなかったが。


もう一口、飲んだ。
そして気付く。

こんな雪が舞う中で、寒さを感じない。
調度いい湯加減の湯船に浸かっているように温かい。



「美味しいでしょ?」
「うん、凄くね」
俺は彼女の作ってくれたブリ大根を頬張って笑った。
「もう1本つけようか、冷えるもの」
彼女はいそいそと台所に向かう。
外を見れば綺麗な雪景色だというのに、俺は彼女の背中を見ながら、彼女の手料理を頬張って。


そう。そうなんだ。
俺は彼女しか見ていなかった。
見失わないように、ずっと。
それなのに。
君は突然俺の前から姿を消した。



思考を止めた。考えても、彼女は帰って来ない現実に、もうこれ以上耐えられない。
うなだれて、もう一口酒を含んだ。


「ごめんなさい」


「え……?」


目の前から声がして、思わず声を上げ、庭を見た。
そこには彼女が立っている。
酔っている訳ではなくて、ちゃんとそこにいるんだ。
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
そう泣きながら微笑む彼女の震える肩には、はらりはらりと雪が積もる。
履き物も履かずに飛び出していた。
言葉なんか出ない。だから代わりに抱き締めて。
「帰ってきた……帰って……」
やっと出た台詞にすら苛立つ。そんな事を言いたいんじゃない。
冷えきった彼女の身体を強く抱き締め続けている俺の耳元で、
「飲んでくれてる……私のお酒……」
恥ずかしそうに小さく笑った。
「なんだよ、笑うな───」
「ありがとう」

「──────」


彼女の姿は無くなっていた。
激しくなる自分の呼吸が白くなって虚空に消える。


遠くで電話が鳴っているのが聞こえた。
でも身体が動かない。
やがて切れた音は、再び鳴った。
さっきよりもずっとけたたましく聞こえたせいか、ピクリと肩が震える。






「こんな時間にごめんなさいね?」

彼女の母親だった。

「あの子……あの日、登山には行ってないのよ……黙っててごめんなさいね」

何を言ってるんだ?

「身体の調子が悪いとかで、もしかしたら子供出来たかね?なんて言って病院行かせたら、なんや難しい病気見つかってね」

何の、誰の話をしてるんですか?

「そのまま入院ってなってね……ずっと入院してたのよ……口止めされてたから……」

「今、彼女家に来ました」

やっとの思いで、そう伝えた言葉が震えていると、自分でも解る。

「え? 大丈夫? そんな訳ないよ! しっかり落ちついて聞きなさいよ? あの子……つい今さっきね、息を───」




俺だけが何も知らなかった。
彼女だけを見ていたのに。
何も気付かなかった。

本当に孤独だったのは、苦しくて押し潰されそうだったのは、彼女の方だったのに。


俺は彼女に〈何を〉残せた?



温かい日差しと、桜の花弁が舞う庭を見つめる俺の手には、杯とあの酒。


この瓶が空になった時。
これからどうして行けばいいのか。
解らない。
だけど。
どうにかして生きていかなきゃいけない。



でも今は、もう少しだけでいいから
君との思い出に浸って酔っていたい


こんな風に思う俺が、底無しの馬鹿だって自分で解っているけど、馬鹿のままでいい

だから


ずっとこの酔いが覚めなければいい───















─終わり─


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このストーリーに関するコメント

18/01/27 のあみっと二等兵

補足になってしまいますが、彼女が残したお酒は「口噛み酒」です。解りにくいですね……それでも読んでいただきました方々有り難う御座います!

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