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伊川 佑介さん

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酒酔憐憫

18/01/20 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:3件 伊川 佑介 閲覧数:352

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ボォォ、とエアコンの鈍い音が響いている。目の前の白衣の女はうんざりした表情で眼鏡越しに僕のことを睨んでいる。この女は何歳だろう。もしかすると五十以上だろうか。昔は美人であった面影のある顔で睨まれて、僕は申し訳なさそうに視線を落とした。
「荻野さんご自身の問題なんですよ」
生殖行為という側面だけを考えると、全ての男の欲求は若い女にだけ向けられるはずだ。けれど今なぜか、目の前の女の目尻のシワとか、疲れの取りきれていないような顔に魅力を感じる自分がいる。三十も半ばを過ぎた中年の己に対する自己愛の投影なのだろうか。
「きっと小さな自殺なんです」
ふいに口から言葉が漏れ出した。アル中になってから脳がいかれたのか、自分の意図とは無関係に口が動く事があった。体を壊しているのに酒をやめられないのは自傷行為だという理屈だ。もしかすると若い女に興味を失ったのも、生物として死のうとしている前兆なのかも知れない。女は何も言わずに僕を見て、あきれたように口を歪めた。

いつの間にか外は暗くなっていた。白い息をわざと吐いて、ダウンのポケットからバットを取り出し火を付ける。
「ウレシイネ」
中也の真似をしてみるも何も嬉しくはない。
今日も病院では怒られただけだった。けれどそれで少し救われている自分もいた。治療プランに従わない患者に感情的に怒りをぶつける女が、逆に優しく思えたのだ。いつからか自分が徐々に薄く、透明に消えゆくような感覚が心を支配している。社会は僕が生きていることに関心が無い。僕が死んでも誰も何の感情も持たないだろう。心理士の女の幼稚な苛立ちに救いを求めるほど、僕は病んでしまっている。
「居場所は自分で作るしかないのよ」
母がよく語っていた言葉がふいに口から漏れ出した。それは分かっているが、結局作れなかったのだ。

ひどく喉が渇いた。右手が独りでに小刻みに震えだした。街灯の下にポツンと女が立っていて、黙ってジッとこちらを見ていた。
「居場所は自分で作るしかないのよ」
今度は僕ではなく、女が呟いた。不思議に思ってよく見ると、女の容姿は若い頃の母にそっくりだった。僕が子どもの頃、急にどこかへ行ってしまった母。今の僕と同じように孤独な人だった。今は何をしているのだろう。まだ生きているのだろうか。見ているうちに女の姿は徐々に薄くなり、やがて透明に消えていった。

いつの間にか手にはカップ酒が握られていた。意識が途切れ途切れで、気づかぬうちに見知らぬ公園に立っていた。さっきの母の幻影は何だったのだろう。ベンチに座ってゆっくりと酒を口に含む。徐々に酒の力で、薄く透明な自分が惚けていった。惚けてカクテルのように社会と混じり合い、辛い孤独を忘れてゆく。母もよく酒を飲む人だった。きっとこの微酔いの中に母も癒しを求めたのだろう。
ドサッ、と何かの音がした。救急隊員が慌ただしく周囲を動き回っている。母によく似た女が目の前に倒れていて、隊員が懸命に心臓マッサージをしていた。
「居場所を見つけられなかった」
ふいに口から母の声が漏れ出した。救急隊員が急にクルッとこちらに振り向き、「君は大丈夫?」と言った。僕は訳も分からぬままに「大丈夫です」と答えた。

気づくと僕は担架に乗せられて、救急車で運ばれていくところだった。けたたましくサイレンの音が響く。隊員が険しい顔で僕の顔を覗き込んでいる。酔いから完全に覚めていて、妙に意識がハッキリしていた。目の前の現実がいつもよりなぜか色濃く感じられた。心から絞り出るように自然と涙が溢れ出した。「もう少し頑張るよ」と心の中で母に向けて呟いた。何かを確かめるようにもう一度「大丈夫です」と呟いた。


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このストーリーに関するコメント

18/01/20 凸山▲@感想を書きたい

拝読しました。
自己陶酔、と形容しても差し支えない主人公の独りよがり感が呆れるほど感じられました。恐らく周囲の言葉も脳内変換されていて、自分の発する言葉も思っているものと事実は違うのでしょう。唐突な中原中也も、母の幻影も、読みやすい文章でしたので余計に、話の展開の基点が見当たらなくて、己の読解力のなさに途方に暮れる気分です。

18/01/20 伊川 佑介

批評は要りません。

18/01/31 伊川 佑介

上記コメントに不快な印象を持ったのは私の勘違いだったかと反省し謝罪したのですが、やはり勘違いではなかったようです。
今後私の話にコメントをしないようにお願いいたします。

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