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笹岡 拓也さん

文章で笹岡 拓也の世界を伝えられたらいいなと考えてます。 キャラクターたちがイキイキとした物語を書いて、読んだあと何か残れるような作品にしていきます。

性別 男性
将来の夢 自分の作品を多くの人に読んでもらうこと
座右の銘 生きているだけで幸せ

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じぃじの葬式

18/01/19 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:1件 笹岡 拓也 閲覧数:374

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みんなじぃじの葬式を早く終わらせたくて仕方ない顔をしている。パパもママもおじさんもおばさんも、遠い親戚の人もみんな葬式が終わることを今かと待ちわびている。
「キヨヒコさんと過ごした日々を思い出してあげることが大事です」
お坊さんがお経を唱えたあと、私たちに有難い話をしてくれる。昔はお坊さんの話なんて聞いてられないと思ってたけど、今聞いてみると素晴らしいことを言っていたんだと感じる。
葬式を早く終えたいみんなもこの時ばかりは涙ぐんだり、悲しい表情を浮かべていた。
「みなさん亡くなった方は息を吐いて亡くなります。よく亡くなられた方に対して息を引いたと表現しますね?本来はその息を引くのはあなたたちです。キヨヒコさんの息を引くことで、キヨヒコさんは安らかに眠ることができるんです。みなさんがキヨヒコさんの想いを受け継ぐことが大事なのです」
この葬式の中で一番じぃじのことを考えているのは、お坊さんかもしれない。私はこっそりそんなことを考えてしまった。

「親戚の方々、父と親交のあった方々、本日はありがとうございました」
パパは硬い表情を浮かべながら、献杯前の挨拶をし始めた。みんな早く酒を飲みたくて、会食が楽しみで仕方なかったんだ。だからみんなじぃじの葬式を早く終わらせたがっていたんだ。
じぃじの葬式ぐらい、もっとじぃじのことを考えてあげるべきなんじゃないの?私はみんなのことを軽蔑した目で見てしまう。
パパの言葉をしっかり聞いている人は私の見る限りいない。早く酒を飲みたいようだ。中には「早くしないか?」とぶつぶつ呟いている親戚もいた。みんなじぃじのことをどう思ってるの?

そんな堅苦しい献杯前の挨拶が終わる時、思いもよらないことが起こる。
「なんて堅苦しい挨拶は止めさせていただきます」
パパはいきなりそんなのことを言うと黒いネクタイを急に緩め始める。なんて事してるの?じぃじの葬式だよ?これじゃあじぃじが可哀想だよ。
「ほら、みなさんもネクタイなんて取って!ボタンも緩めて良いですよ!ミキもほら、制服の上脱いでいいぞ」
パパはみんなにも楽な格好になるよう勧め始める。そして私にもマイク越しで勧めてくる。とにかく恥ずかしい。私はその場で俯いて、その場をやり過ごす。
「ミキも堅苦しいのは止めて、楽しく献杯するわよ」
私がパパの言うことを聞かないでいるとママまでもが常識を覆すようなことを言ってくる。本当におかしいよ!
「それでは、私の父、キヨヒコに献杯!」
「けーんぱーい!」
パパの声掛けでみんなが一斉に献杯と叫んだ。もっと神妙な顔つきで言うんじゃないの?みんなとっても嬉しそうな顔して献杯をしていた。じぃじが死んで嬉しいみたいじゃないか。私は悲しくて仕方ないのに。

会食は大いに盛り上がっている。そんな会食にうまく馴染むことができなかった私は、じぃじの眠ってるところにしばらくいた。
「じぃじ、みんなどうかしてるよ。どうしてこんな盛り上がってんの?じぃじがいなくなって私は寂しいよ」
もちろん声は返ってこない。じぃじは眠ったままだった。
「ミキはおかしいと思ったかな?」
じぃじに泣きついている私に、パパが話しかけてきた。今私はパパと話したくないのに。
「パパも変だと思ってる。でも実際やってみると楽しいもんだな」
変だと思ってるのに、パパはどうして楽しんでるの?私はパパの軽率な発言に怒りへと変わる。
「どうしてパパたちはじぃじの葬式なのに楽しんでんのよ!最低だよ!じぃじ死んじゃったんだよ!死んじゃったのに...死んじゃったのに笑ってられないよ。最低だよ!ヒトデナシ!」
私の怒りは抑えきれず口にしてはいけない事まで言ってしまった。それでもパパは怒らなかった。
「そうだな。ミキはじぃじっ子だったからな」
パパはそう言うと私の頭を撫でた。私はすぐに手でパパの手を払う。手を払われたパパは少し驚いた顔をするが、話を続けた。
「じぃじが死んだことはパパだって悲しいんだよ。でもじぃじが会食は楽しんでほしいって言ってたんだ。盛大に。じぃじらしいな」
私はパパの言葉を聞いた途端、さっきまで溜まっていた怒りがスッとどこかへ行ってしまった。
「ほらミキ、みんなの顔を見てごらん?楽しそうだろ?きっとじぃじはミキにもあんな楽しい顔してもらいたいんだよ」
そう言うとパパは会食のもとへ戻って行く。私はまだまだ子どもだった。パパがどんな思いで、このような会食にしたのかを。お酒が大好きで集まることが大好きで、楽しいことが大好きなじぃじが望むことを叶えるのがどんなに辛いことなのかを。
「ほらミキ、早くこっちに来なさい」
パパは私のことを呼んでくれた。パパの目はよく見ると赤く腫れ上がっていた。私はじぃじのもとから離れてパパのもとへ駆けて行った。


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このストーリーに関するコメント

18/01/20 凸山▲@感想を書きたい

拝読しました。
御作の主人公ミキに共感する部分もありました。人が死んでつくづく思うことでもあります。儀礼的なことがとにかく事務的で、故人との別れを悲しむ、なんてことは全くできないし、一番忙しいのは死への過程でより身近にいた人間だということです。故人の遺言や遺志を十二分に叶えてやることもできず、忙殺されます。こればかりは喪主やら何やらやると嫌でも感じます。逆に、どれほど参列しても、中心にいなければそうは思わないでしょう。岡目八目もかくや、というところです。『最低だよ!ヒトデナシ!』というセリフを瞬時に選択できる主人公が頼もしい限りです。

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