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沓屋南実さん

音楽、表社会系、詩、エッセイなど書いております。 よろしく、お願いします。

性別 女性
将来の夢 小説家。 音楽を聴きながら、一日中本を読んで、小説を書く生活。 行きつけの音楽カフェで、皆とおしゃべりすること。
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女リスト

18/01/15 コンテスト(テーマ):第151回 時空モノガタリ文学賞 【 あばずれ 】 コメント:0件 沓屋南実 閲覧数:304

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 晩夏の夕陽が差し込む、とある邸宅のフォルテピアノの置かれた部屋。
 クララ・ヴィークはいぶかしげに、カミラ・プレイエルからの手紙を見つめた。

 お互いライバルピアニストとして、知っていはいるものの友人ではない。演奏旅行ではすれ違いばかりで、クララはカミラの演奏を聴いたことがない。ただ、ショパンからノクターンを献呈されるほどの実力を誇る、スターピアニストであることは誰もが認める事実である。
 ふたりは並べて批評されることが何度もあった。ピアニストとしての実力以外の面では、カミラの評判は悪い。カミラのことを女リストと呼ぶ人もいる。フランツ・リストばりのピアノの腕を褒めたたえているのではなく、女性関係が派手なリストの女版という意味だ。
 
 カミラからの手紙の内容は、いたってシンプルだった。来月ライプツィヒで公演を行うのでその前に会いたい、というものだ。用件は書かれていない。
 クララは律義さも手伝って、遠方からやってくるピアニストに敬意を払うべきと考えた。

 クララは、カミラより8つ年下だが子どものうちからプロの演奏家として舞台に立ってきた。今では、興行の雑務まで負わねばならない。全て担ってくれた父とは、ロベルトとの結婚を認めないため断絶していたからである。作曲編曲の仕事などもあり、慌ただしくひと月が過ぎていった。 
 
 その日、クララは几帳面に約束の時間より少し早めに、待ち合わせのホテルのロビーに着いた。クララは一番お気に入りの深いグリーンのドレスを着て、気持ちを奮い立たせた。
 待ち人いずこにとクララが辺りを見回していると、肩を誰かが叩く。振り返ると、クララよりかなり背の高い女性が、ニッコリ微笑んだ。
「カミラ・プレイエルです」
 クララはあまりにイメージと異なり、驚きを隠せなかった。
「あなたが?」
「あら地味で驚いた?」
 クララが口ごもっていると、カミラは陽気に笑い飛ばした。その辺りを歩く街娘と変わらない簡素なドレスを着ていた。
「いいのいいの、そういう反応に慣れているわ。私は実際そんなにおしゃれではないのよ。あなたは、皆が言っていた通り、本当に可愛い方ね」
 クララは恥ずかしそうにうつむいた。

 話はライプツィヒの印象と言った月並みなところを通り、カミラとクララの共通の知人の話に移り、そしていよいよ本題に入った。
「わざわざクララさんに時間を割いてもらったのは、お父様のことなの」
 カミラは手短に説明した。クララの父は、カミラの今回の公演の手伝いを申し出ている。唐突で不自然なので周囲に相談すると、やはりクララとロベルトに対して含むところがあるらしい。
 話をひととおり聞いたクララは、暗い声で言った。
「父は私が根を上げるのを待っているんです。父は味方を増やしたいのかも。あなたは高名な方だから」
「まあ、あり得そうなことね。では、しばらくお父様の味方のふりをしていましょう」
「内々のことに巻き込んで申し訳ありません」
「拒絶するのは気が進まなくて。それにあなたの側が有利になるように、何かできるかもしれない」
「まあ、そんな、初対面の方にお願いできません」
「それがね、利用価値があると思うわよ。あなたには辛いことだとわかっているけれど、でも、好機にしないとね」
 カミラは、スキャンダルも全てピアニストとして生きていくために利用したことを話した。
「どうせ噂の種になるのは避けられないんだから、前向きに考えたほうが得よ」
「そう思えたら楽なんですけど。父のおかげで、今の私があるのだし、だけど父は愛するロベルトを認めてくれない。それをいろいろな人から言われるのは本当に辛いんです」
「悲しいことよね。いいわ。私も手伝うわよ。スキャンダルのおかげもあって、あちこちにツテがあるし」
「だけど、そんなこと、お願いできません」
「本当に、あなたは真面目ね。私のほうにも利があるのよ。ライバルを助ける良い人を演じられる。だから、むしろ利用しているのはこっちよ。気にしないで」
 
 クララは、カミラに噂に聞くようなスキャンダラスなところを微塵も感じなかった。それどころか、話すほどに、女性ピアニスト特有の苦労など共感できることばかりだった。
「カミラ、あなたは本当は良い人なのね」
「まあね。あばずれだとか女リストだとか言われっぱなしだけど。わかる人だけわかってくれたら、いいの」
「訂正しないんですか?」
「まあ演奏会が満員になるからかまわないわ。無料で宣伝できると思えばね」
 クララは感嘆のため息をついた。カミラほどの心臓があれば、どこでもやっていけそうだ。クララは、心底尊敬の念で8才年上のピアニストを見つめていた。


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