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君形チトモさん

「きみがた チトモ」と読みます。

性別 女性
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触れれば燃える

18/01/15 コンテスト(テーマ):第151回 時空モノガタリ文学賞 【 あばずれ 】 コメント:2件 君形チトモ 閲覧数:151

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「もういいわっ、さよなら!!」
 日曜昼前、副都心でお気に入りの歌手のCDを買った帰り。信号待ち中に、カップルの激しい喧嘩が後ろから聞こえた。荒いヒールの音が近づいてくる。カップルの女性の方だろう。
「あら? あなた、同じクラスの高橋くん?」
「え?」
 思わず声の方向を見た。露出した太ももにブーツ、ニットワンピースにファーベストの女の子が、こちらを見つめている。
「……蜜口さん」
「やっぱり」
 蜜口さんは、その整った顔で微笑んだ。彼女は高校の有名人だ。ただし、「ヤリマンビッチ」という悪評で。恋人は月2回は変わるし、授業をサボって男子と「そういうこと」をしてる噂も聞く。地味な俺からすると苦手なタイプなので、話したことはない。
「……引くほど不潔でもブサイクでもないし、いっか。この後空いてる? ちょっと付き合ってよ」
「え!?」
「やあね、デートよ。ホテルじゃないわ。喧嘩、聞こえてたでしょう? デート中だったけど別れたから、この後暇なの。ねえ、どう?」
「……まあ、この後帰るだけだけど」
 学校で会った時に何か因縁をつけられたらと思うと怖くて嘘はつけず、正直に答える。
「決まりね」
 蜜口さんはするりと自然に俺の手を取った。心臓が跳ねる。動揺を察した蜜口さんが、おかしそうに噴き出した。

 あちこちショッピングしてまわり、やがて夕飯時になったのでファミレスに入った。一日付き合ったことにお礼の言葉をもらったり、童貞であることを看破され、今日メンズファッションのショップで選んだ服はお礼のつもり、それを着てれば少しはモテるだろうなどと言われたり、俺が今日買ったCDの、ちょっとマイナーな歌手を馬鹿にせず興味を持ってくれた蜜口さんへ、CDを貸す約束をしたりした。
「……蜜口さんは、思ってたより普通だな。もっと怖いかと思ってた」
「何それー」
 蜜口さんが唇を尖らせる。今日一日付き合って、結構普通に笑ったり怒ったり驚いたりするんだと、しばしば面食らった。くるくる変わる表情を見ていると、悪い噂は全部嘘のようにさえ思えてくる。
「……蜜口さんは、自分の良くない噂を多分知ってると思うけど、気にしてないの?」
 ぱちくりと蜜口さんはまばたきして、すぐ鼻で笑った。
「噂は嘘じゃないし。私はやりたいことをしてるだけなんだから、言わせておけばいいのよ」
「やっぱり蜜口さんは強いんだな、俺にはできないや」
「…………だって、私は強い側の人間でいたいもの」
 さすがだと思って口にした言葉への返事は、らしくない、少し芯のない声での返事だった。
「強ければ、いじめられないし、暴力ふるわれることも怒鳴られることもないし、奪われることもない。怯えて泣いて暮らすくらいなら、好き勝手して後ろ指刺される方がマシ。幸い顔と体はいいから、それを武器にしてるの。初めはともかく、割り切ってからは気持ちいいし、必要とされてるって思えるし、相手も嬉しそうだし。それ目当てで来る奴もいるけど、何もないよりは大事にしてもらえるもの」
 いつもキラキラしている蜜口さんが、雰囲気も声もどろりとしたコールタールのようだ。あんなに強そうでいつもグループの中心にいて、怖くて近寄りがたいと思っていたのに、今の蜜口さんはすごく寂しそうで、そのままどんどん小さくなって消えてしまいそうだった。
「…………その喋り方も、強そうだから?」
「……そうよ。女王様みたいでしょう?」
「うん、似合ってると思う」
 それからは、俺も蜜口さんも黙ってデザートを食べて、駅で解散した。なんだか蜜口さんに見栄を張りたくて、蜜口さんの会計も俺が払おうかと思ったけど、あの話の後でそれをすると嫌がりそうな気がしたから、やめた。

「おはよー高橋くん、昨日は付き合ってくれてありがと。ところでCD持ってきた?」
「おはよう。ちゃんと持ってきた」
 登校して席に着いた瞬間、教卓周りでたむろしていたグループから、蜜口さんが歩み寄ってきた。俺は昨日約束した、お気に入りの歌手のCDを取り出し、蜜口さんに差し出す。蜜口さんがCDに手をのばす。取りやすいようにとこちらも少し腕をのばした瞬間、蜜口さんの指に俺の指が一瞬当たった。動揺した俺とは反対に、蜜口さんは涼しい顔でCDを受け取る。
「早めに返すわ」
「……わかった」
 CDありがとね、と微笑んで、蜜口さんはグループへ戻っていった。
 手をつないで歩いた時の手のひらの感触を思い出し、心臓がドキドキと騒ぎ始める。昨日見た彼女の笑う顔、怒る顔、おいしそうにご飯を食べている顔、驚く顔、そしてあの話の時の寂しそうな顔が浮かんでくる。カアッと顔が熱くなってきた気がした。まさかよりにもよって、俺にそんな気持ちを抱いてくれそうにない、蜜口さんでなくてもいいだろう。あまりにも難儀な恋の行方は、まだわからない。


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このストーリーに関するコメント

18/01/15 凸山▲@感想を書きたい

拝読しました。
蜜口さんの人と擦れ合うことの巧さというか――取り入るとも、魅了するとも、何とも言いがたい、むしろ人間観察眼的側面がとても伝わってきた気がしました。『強い側の人間でいたいもの』という告白すらも、高橋君の反応を計ろうとする無自覚の揺さぶりであったのかもしれません。おそらく、彼女にとっては高橋君と過ごした時間も『武器』の材料のようになっていくのだろうなと感じられました。彼女の底知れなさをもっと描いていただければと思わずにはいられませんでした。

18/01/30 君形チトモ

>凸山▲@感想を書きたい 様
遅くなってしまい申し訳ないです、お読みいただき誠にありがとうございます。
意識して行うことも無意識に行うことも含みを持ってしまう、無自覚に周りを巻き込んで振り回す「魔性の女」がイメージの根底にあったので、蜜口さんの一筋縄ではいかない雰囲気を感じ取っていただけてとても嬉しいです。しかしやはり伝えきれていないところもあったかと思うと、文字数の限られた中で登場人物の魅力を表現する難しさを痛感しました。今回いただけたコメントを励みに、精進しますね。

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