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志水孝敏さん

いろいろ書いています。 時空モノガタリ文学賞作品集書き下ろし含め掲載。小説現代ショートショートコンテスト・小説の虎の穴・Book Shortsなど入賞。 第1・2回ショートショート大賞最終選考、カクヨム(ちょっとだけ)ジャンル1位獲得。 Twitter→@shiz08

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君はあばずれたのか

18/01/15 コンテスト(テーマ):第151回 時空モノガタリ文学賞 【 あばずれ 】 コメント:0件 志水孝敏 閲覧数:153

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 今回のテーマを見て、イヤな気分になった、イヤなことを思いだした。
 ずいぶん前のことである、小学校五年生で、自分は少年団に参加しており、天候のよい土日に、小中学生に加え、引率の大人と、キャンプ地に出かけるというもので、その日は札幌の初夏、空は冴え冴えと澄みわたり、いつまでも吹かれていたくなるような薫風が、苦しい冬と短い春を乗り越えて力を発揮し始めた木立を揺らし、若々しく爽やかな緑の香りのなか、調子よく昼前まで歩いてお腹がすき始めると、いつもはひねくれた少年たちも、ときには山並みの美しさに思わず見とれたりして、みなみな顔をほころばせ、炊事場につけばまずは各班かまどを整え、米とカレーのなべを据え付け、だいたいこういうときの昼食はカレーなのであるが、たまらない甘めのカレーの香りが漂い出すと、誰もがそわそわと無闇に歩き回って完成を待ちかねるのであった。
 終われば遊びで、縄跳びやらフリスビーにドッジボール、自分もいつもの仲間と遊び始め、その中に一人の少女がいて、たしか二歳上だったのだから中学生だったのだと思うが、このころの二歳差、それも女子と男子となると、大きなもので、自分もそう背の低い方ではなかったが彼女の肩くらいまでしかなく、なんと言っても覚えているのは彼女の首と手足の長さで、とくに走ったり、飛び跳ねたりしているときなど、よく陽に焼けたその肢体が、激しく躍動して、まるでどこまでも伸びていくようで、別種の生き物のようにしか見えず、それほど活発であったけれど彼女は決していじわるではなく、いつも黒目がちの瞳をきらきら輝かせて歯を見せて笑っていた。
 しかし、その日のドッジボールでも、彼女はなんとも強かったので、男子五人でかかってもまるで歯が立たず、投げても彼女の影にすら当たらず、バウンドボールは巧みに確保され、マンガのようにひしゃげ唸りをあげて飛んでくるかのような速球は、腿や二の腕に当たってひりひりと痛んだ。
 そうして、ほんとうにひどいことを言ったと今でも悲しく思うのだが、彼女に向けて自分は
「『あばずれ』だ」と言ったのであって、よくこんな言葉を知っていたものだが、その単語の入手経路はどうしてか今でもよく覚えていて、あのころゲームを題材にした四コマ漫画がよく雑誌に掲載されており、マルカツスーパーファミコンという雑誌のソードワールドを題材にした漫画で、仲間の一人の活発な女性に「あばずれ」というと、魔法も使っていないのに怒りによって全能力が大きくアップする、というような他愛のない内容だったのだが、あまりの彼女の活躍ぶりにその魔法のことが思い出されたのか、あるいはちょっとからかってやるつもりか、一番ありそうなのは、最近覚えた言葉を使ってみたくて……それで彼女のことをそう言ったのだが、一緒にいた男子たちもその言葉に興味を持ち、口々に彼女をそう呼び始めてしまったのだ。
 そして彼女は、よく覚えていないのだが、泣いてしまったような気もして、しかしおそらくその場にいた誰もが「あばずれ」という言葉の正確な意味など知らなかったであろうし、実を言うとこれを書きながらインターネットで調べてみてもまだピンと来ていないが、言葉に含まれたからかいの気持ちだけで彼女を傷つけるのには十分であったのだろう、元気なだけですれた子ではなかった、いま思い出しても気分が重くなるし、自分も彼女のことが好きで、とてもかなわないと思い、憧れてもいたのであって、バス酔いのときに吐いている自分の背中を丹念にさすってくれたような彼女だった。
 いまは彼女はどうしているだろう、もしかしたら運動の選手になっていたり、家庭に入っているかもしれず、田舎で野菜などを作っている感じもするし、そう思ってこの便利な時代だから、ネットで検索してみると、何とまったく同じ名前のAV女優がヒットした。
 さすがにそんなことはないだろうと思ったのだが、顔を見るとどうも似ていないこともないような気もするし、いや、かなり似ているとも言える。
 これはどういうことなのだろうか、ああいった女優が、本名で出ていることなどまずないだろうから、偶然の一致に違いないし、自分はもちろんAV女優に偏見などなく、それにもうこれほどの時間が経っていれば、自分もそうだが誰しもさまざまな変転があったに違いなく、どんな職業を選んでいたところで不思議ではないし、それにさほど珍しい名でもないのだから、たまたま一致したのだと思うのだけども。
 とりあえず近所のレンタルビデオ屋で探してみたら、なんとその女優の作品があったので、しかもよりにもよって裏の煽り文句に「あばずれ女教師の〜」などと書いてあり、あまりに運命的であったので、ひとまず借りてきて、いまキーボードの横にディスクを置いて、睨みつつこれを書いており、観たものかどうしたものか悩んでいる。


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