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愛するための行為

18/01/10 コンテスト(テーマ):第151回 時空モノガタリ文学賞 【 あばずれ 】 コメント:1件 ぜな 閲覧数:374

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「浮気をしましょう」

先週の月曜日の夜、仕事帰りに安藤義広(あんどうよしひろ)は見知らぬのどこかのホステスのような格好をした女性に路地裏に連れて行かれ、静かにそう告げられた。彼女は、あばずれ女として有名だった。路地の先にあるホテル街で、よく男とホテルへと消えて行くのを色んな人に見られていた。そんな彼女のターゲットに自分が当てられてしまったようで、義広はとても困っていた。
しかも妻も子どもにも恵まれている義広にとってはそれは決して許されるはずのない行為なので当然断った。それなのに女は何度も何度もまるで暗示をかける様に同じ言葉を繰り返す。流石に諦めもせず言い寄ってくる彼女に恐怖を覚えそのまま無視をして帰ろうとした。
 しかし、スーツの裾を逃がさないとでもいうようにがっしりと握られてしまった。小さな悲鳴を上げてしまいそうだったが何とか堪えて彼女に向き合ってみる。自分の言葉に耳を向けてくれるようになったと思ったのか女は一つ息を吐いて少し義広と距離を取った。

「安藤義広さん、私と……浮気をしましょう」
「どうして、僕の名前を……」
「ずっと貴方のことを見ていましたから」

 女はにっこりと当然のように微笑んだ。もしかして彼女はストーカーなのだろうか。そこまで自分に対して顔や人柄に自信がない義広はそれはないだろうと心の中で苦笑した。
ホテル街でたまに見かけるの女とただその道を通り過ぎる通行人である自分とではまるで接点がない。今まで寝た男の中に自分の知り合いでもいたとしか考えられないが、義広は自分を売るような輩とは付き合いなどはないはずだった。

「お願いだから、私と浮気してください」

 未だに承諾しない義広に痺れを切らしてとうとう女は頭を下げて泣き出した。義広は戸惑ってしまう。そこまでしてこの僕と浮気をしたいのか。僕以外に男なんてたくさんいるというのに何で僕なのだろう。理由が知りたい。彼女からどうしてもその理由が聞きたかった。

「……何で僕なの?」
「貴方が一番、私を愛してくれる、と思ったから」

 女は静かに涙を流す。「愛」が欲しくて、愛して欲しくて仕方がない――それは僕だと埋められるものいけなのだろうか。彼女が自分と愛を求めてくるのはおかしいはずなのに、何故かそれがとてもしっくりくる気がして、どうにか愛に縋りつこうとする彼女を愛しいと思ってしまった自分がいて、もう色々と考えることがどうでもよくなった。

「いいよ。僕と、浮気しようか」


 安藤義広は、女と浮気をした。
自分もまたあばずれ女に取り込まれてしまった一人である。


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このストーリーに関するコメント

18/01/10 凸山▲@感想を書きたい

拝読しました。非常に短く締めくくられていて読みやすかったです。
 ふと思ったのは、登場人物である『安藤義広』と、語り部の『自分』が別人なのだろうか、ということです。『自分』は路地裏に連れ込まれる義広を少し離れた場所で見ている。義広の人となりを知っている。彼の思考も理解している。それはおそらく、『自分』が過去に経験したのと同じ道を義広が歩むのをわかっている者の視点なのかもしれません。きっと『自分』の前にも、別の『自分』がおり、その前にも別の『自分』が……そして、義広が次の『自分』となることを見届け、『自分もまたあばずれ女に取り込まれてしまった一人である』と締めくくられる……少し怖いお話でした。

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