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バビロンさん

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夫婦の戦い

18/01/07 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:0件 バビロン 閲覧数:318

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 冷蔵庫のビールが切れている。最近夫の辰己は仕事から帰ってくるなりすぐに就寝するため会話もめっきり減ってしまった。あまり飲まなくなったのはいいけれど、こうも機械的になると自分が退屈で飲んだくれてしまっている。
 ジャケットを羽織ってバイクにまたがった。コンビニに駐車したところで、周囲から妙に視線を感じた。女性のバイク乗りは珍しいからよくあることだが。
 六本入りの缶ビールとおつまみを購入し、バイクのエンジンをかけたとき、フルフェイスの集団に囲まれていることに気が付いた。
 「ナンパかしら? ちょっと嬉しいけど人妻よ?」
 「黙っておとなしく付いてこい」
 眼前の男が刃物をちらつかせてそう言った。


 自宅に帰宅した辰巳は、一枚の脅迫状で怒髪天にきていた。
 『あんたの大事なものを預かった。返してほしくば、山奥の廃工場に来い。お前の命と交換してやる』
 自分の正体がバレていたことの衝撃など忘れて、大事な家族を必ず助け出す一心で山へと走った。
 胸の前で腕をクロスし、叫ぶ。
 「チェンジ! スカーレットディストーション!」
 緋色のアーマーが全身を包み、燃える炎のようなマスクが顔面を覆いつくす。 
 脚部の排熱機能でチーターよりも速く、サルよりも身軽に山を駆け上がった。


 両腕を後ろに縛り付けられ、ごみのように床に投げ捨てられた。
 「私をどうする気なの?」
 「ババアは黙ってろ。てめえは人質だ」
 自分で言うのはいいけれど、人に「ババア」と言われるとさすがに血管が切れた。指先から鋭い風を作り出し、縄を切る。
 「はぁ……久々だし、内情を探ってからにしようと思ったけど、悪者であることには変わりなさそうね」
 両手を振り、風の渦で全身を包み込む。そして鎌のように鋭く尖ったフォルムが現れた。
 「!? 何をしている!?」
 「私はまだ二十代よ!」
 叫び声とともに鋭い風が建物もろとも周囲全員を一斉に引き裂いた。


 廃工場に到着したと同時に建物がガラガラと崩壊し始めた。
「佐代子!」声がかき消される。
 崩れ落ちる建物の中から風をまとった何者かが現れた。
 「これがてめえらのやりかたか! 絶対に許さねえ!」
 先手必勝とばかりに辰巳は右腕に炎を集中させ、火炎放射器のように対象を燃やしあげた。
 「えっ、何!? アレが本命なの!?」
 突然目の前が炎で埋め尽くされるも、佐代子は風の障壁で受け流す。同時に貫通式の風の刃を炎の中心に投げ飛ばした。 
 急な殺気に火炎放射を止め横に飛びのいた。背後にあった瓦礫が木っ端みじんに弾けとんだ。
 「なんちゅう威力だ……」
 それなら、と辰巳は両手両足に炎をまとい、接近戦に切り替えた。右フック、左アッパー、足払いと一発一発が速い、熱い、重い。かすっただけでも致命傷になりかねない。
 「こんな強いヤツがいたなんて……」
 障壁で紙一重に交わしているものの相当不利な間合いだった。佐代子は地面から一瞬竜巻を生み出しその隙に間合いをあける。
 お互い必殺技を撃つにはうってつけの間合いだ。
 辰巳は全身の炎を頭部に集中させ、一方佐代子は天に手をかざした。佐代子の頭上が曇りはじめ雷がごろごろとうなりをあげている。
 「いくぞ!」
 辰巳は口から先ほどとは比べ物にならない勢いで炎を吐き出した。それに対して佐代子は腕を振り下ろし雷撃をぶつけた。威力が拮抗し、お互いに一歩も引けぬ状況だったが、炎の威力がみるみるうちに衰え、雷撃が一気に炎を押し潰した。
 顔面に直撃し、緋色のマスクがはじけ飛んだ。
 「え、ウソッ!? 辰巳!?」
 驚いたのは佐代子のほうだ。まさか自分と同じ人種だったなんて。
 「まだだ!」
 辰巳の炎は完全に尽きたかに思われたが、一瞬光り光線のような青く鋭い炎が雷撃を一気に押し返した。
 「もう、仕方ないわね」
 佐代子は小さい麻酔針を風に乗せて飛ばした。むき出しの額にそれが刺さり、しばらくすると気を失い辰巳は倒れた。
 佐代子は変身を解き、辰巳に駆け寄った。
 「うぅ……佐代子」
 唸る辰巳の手には脅迫状が握りしめられていた。
 「私が人質って、そういうことだったのね。無理しちゃって」


 目が覚めると辰巳は自宅のソファにいた。
 「あら、起きた? 今日もお疲れさま、あなた」
 「佐代子……無事だったのか?」
 「無事って、いつも通りよ。それより夕飯にしましょ」
 食卓にはパーティでもするのかと思うくらいに料理が並んでいた。ワインや日本酒、焼酎も用意してある。
 「今日、何かの記念日だっけ……?」
 と恐る恐る辰巳は聞いた。
 「うーん、そうね。記念日かもね」
 グラスにワインを注ぎ、辰巳に持たせ、自分のグラスをこつんと当てて乾杯する。
 「いつもお疲れさま。今日は晩酌付き合ってよね」


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