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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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17階の窓からきた彼女

18/01/07 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:320

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 地上17階の窓際に座り、はるか眼下の景色をながめながら、ちびちびと酒をのむのもまんざらではない。高所だと、人間の姿にわずらわされることがないのがなによりだった
 朝からのみはじめたボトルも、そろそろ半分ほどになったころ、酒は極力控えるようにとの医者の言葉が蘇り、ボトルに蓋をしかけたそのとき、誰かが窓をこづいた。
 まえにいちど、鳥がぶつかったことがあったので、こんどもそれかと窓をみた。
 女性が窓のむこうから、こちらに笑いかけている。
 私は数秒の間、そのなんとも愛くるしい顔の女性にみとれていた。おりまげた膝を胸まえにおしあてた格好で、窓の外のわずかなでっぱりだけで、よくおちずにいるものだ。がすぐに、この部屋が17階にあることを思い出すなり、急いで窓をあけようとした。しかし窓が、外側にあけるものだったので、どうしたものかと案じていると、彼女はふわりと空中に退くように浮かんだ。
 私は、ただ目にうつる現実のみをうけいれることにして、とにかく窓を開いた。
「ありがとう」
 彼女は明るく挨拶しながら、部屋に風とともに舞い込んできた。
「どうして、そんなとこから」
「空から、あなたがお酒をのんでいるのがみえたの――」
 彼女は唇から涎がこぼれそうになるのを、あわてて手の甲でぬぐった。酒好きが、酒ときいただけでよくとるそれは無意識の行為だった。
「いっぱい、やるかい」
「ありがとう」
 私からわたされたウィスキーのグラスを、彼女はそろそろと口元までもっていくと、あとは一息にのみほした。
「いけるくちだね」
 のみ仲間ができたことは正直うれしかった。きょうはもうやめるつもりでいたのが、つい自分のグラスにもウィスキーをみたしていた。
 その一杯をあけた瞬間、おもわずむせかえって、たてつづけに咳がでた。
「だいじょうぶ」
「なんでもない。さ、もう一杯――」
 彼女は心から酒を愛し、のむことがなによりの幸福だと思っていることが、そののみかたにあらわれていた。
「きみとなら、とことんのんでみたいな」
「のみましょう」
「よし、のもう」
 だが、ふたたびグラスをあけたときに、きゅうにこみあげてくるものに私は喉をつまらせた。トイレですべて吐き終えてもどってきたときには、部屋に彼女の姿はなかった。またきます、と走り書きしたテーブルのメモ用紙が、窓からふきこむ風にひらひらとゆれた。
 彼女がいったいなんだったのか、もちろん私にはわからなかった。『魔女の宅急便』というアニメがあったが、彼女は魔女というよりは天使のイメージがつよかった。空を飛ぶ箒も、翼ももっていなかったが、日本の天女はそんなものなくても立派にとぶ。
 数日後、これ以上のむと命の保証がないと医者からいわれた私が、性懲りもなく窓際でまたウィスキーのキャップをあけたのは、あの彼女ともう一度のみたかったからにほかならない。
 はたして、のみはじめるとまもなく、窓ガラスがこつこつと鳴った。私はあのときと同じ手順で窓をあけると、彼女を室内に招きいれた。
「まってたよ」
 用意していたグラスに、彼女の分をついだ。
「いただきます」
 駆けつけ三杯とばかり、グラスをあける彼女を見て、私もウィスキーをあおった。とたんに、咳き込み、血のまじった唾液がテーブル上にちらばった。
「具合がわるいの」
「ああ、ちょっとね」
 また咳こんだ私の口から、さっき以上に鮮血がとびちった。
「そんな体で、のんじゃいけないわ」
「のまないと、きみはこないだろ」
「そんなことない。だけど……」
「だけど、なんだい」
「なんでもない。これからもくるから、もうのまないと約束して」
「わかった。きっとだよ」
 彼女は心配そうに何度もこちらをうかがいながら、窓からでていった。
 約束どおり彼女は、それから毎日のように、私の部屋にやってきた。
 そして私がのんでいないことを確認すると、安心したように飛び去っていった。一週間もたったころ、あけた窓からどたりと彼女がころがりこんできた。
「わたし、お酒をのまないと、空をとぶことができなくなるの」
 私は困惑した。彼女は私に酒を断たせるためにじぶんもやめ、そして天使の資格を失おうとしている。
「むりするな、のめよ」
 私はボトルをあけると、グラスにウィスキーをついでやった。
「のまないってきめたわ」
「のむんだ、ほら、こうやって――」
 かたくとじた彼女の口から、グラスを自分の口にもっていった私は、しゃにむにウィスキーをのみほしていた。

 窓の外から、室内でグラスをかたむけている彼女の姿がみえた。ガラスをこづくと、すぐに彼女があけてくれた窓から、私は部屋にはいりこんだ。
「まってたわ」
 さっそく彼女がついでくれたウィスキーを、私は手にすると、ふたりグラスをあわせて笑顔でそれをのみほした。


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