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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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私とお酒のこと

18/01/06 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:426

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 高校を卒業して、そのままとある不動産会社の事務員になるけど、未成年とはいえお酒の席はつきもので、新入社員歓迎会で上司にアルコールを勧められる。少人数の小さな会社? アットホームな職場?にかこつけて、無礼講と叫びながら、やってることは犯罪だ。未成年の飲酒に対し、より一層厳しくなったこのご時世で、よくもまぁヘラヘラと「おら、ビール飲め」なんて言えるもんだ。

「高野さん、飲まなくていいよ。大丈夫だから」
 二つ上の先輩である木原さんが、こちらに笑顔を向けて助け舟を出してくれるけど、すっかり“できあがってる”部長の気は、そう簡単に収まることはない。
「駄目だ駄目だ。飲まんと許さんぞー」
 いつも優しく、私のような新人にも気さくに話しかけてくれる部長が、お酒が入ると別の人格に体を乗っ取られたみたいで、少し怖い。いや、かなり怖い。
「それじゃあ部長!俺がイッキするんで、見ててくださいよ」
 そう言って木原さんが立ち上がると、部長が「いいぞいいぞ」なんて手を叩いて笑う。部長の向けるライフルの照準を彼が逸らしてくれたのは素直に感謝だったけど、私はコールをかけられてグビグビ喉を鳴らす木原さんを見ても、まるで笑えない。
 今後のことを考えると、飲み会がある度に私の心は、どんどん萎んでいくのだろうと確信していた。

 以前、コンビニで酔っ払いが店員さんに絡んでるのを見たとき、ああいう大人にはなりたくないなって思ったし、店員さんが可哀想だったし、酔っ払いが途端に暴力を振るい出すんじゃないかって、ビクビクしたことがある。
 会社帰りに街中を歩いていると、肩を組みながら道を進むリーマンが、掃き掃除でもしてるかのごとく右に左にフラフラで、ぶつかりそうになって迷惑したことがある。

 とにかく私はお酒に対して良いイメージを持っていない。節度を持って嗜む大人は格好良いのかもしれないけど、そういう人を見たことがなく、私にはお酒が害悪に思えて仕方なかったのだ。

 ーーただ私が二十歳になって、法律上お酒が飲める年齢になって、正月休みに実家(市内なので近い)に帰省すると、お父さんが缶ビールや缶チューハイを胸に抱えて、こたつテーブルの上に並べる。

「お酒でも飲みながら話さんか?」
 私が飲み会の席であった不満を話す度に父は、私の怒りに同調してくれたものの、最後にいつも「大人になったらお酒の良さがわかる」で締めるのが恒例のやり取りだった。
 だから、私にお酒の美味しさを伝えたり、自分の子どもとお酒を飲むのが楽しみにしている親もいるって話をどこかで聞いたことがあったので、その類から開催されるプチ宴会なのかなーとも思ったけど、私はそれ以外に“思い当たる節”があった。

 プルタブに指をかける。カシュっ。人生で初めてビールを飲む。噂通りまずい。チューハイを飲んでみる。ジュースみたいだ。でもこれならジュースを飲めばいいんじゃないか? あれ、ちょっと顔が熱くなってきた気がするぞ。

「もしかしてお父さん、寂しくなっちゃった? 感慨深くなっちゃったとか」
 いくら待っても一向に話題を切り出さないので、私が茶化すように言うと、ようやくお父さんが口を開いた。
「まぁ、本音を言うとな。お母さんにも先立たれて、お前まで早々にってなると……」
「やだなー。同じ市内なんだから今まで通り、すぐ会えるよ」
「とは言ってもなぁ。……喧嘩したり、相手のことが嫌になったら、いつでも帰ってきていいからな」

 あれ、お父さんってこんな弱音を吐くキャラだっけ?
 自分の思ってることを恥ずかしげもなく、ペラペラ喋る人だっけ?

「ちょっと、縁起の悪いこと言わないでよー。まだ“式”の日取りだって決まってもいないのに」
「それはわかってんだけどよ」
 この間、一度実家に帰ったときに、お父さんに結婚しようと思っている相手がいる旨を伝えていた。
 お相手は同じ職場の木原さん。私を度々救ってくれた彼となら、温かい家庭を築いていけると、そう確信していたのだ。

「いつもと違って、私がお父さんの代わりに愚痴でもなんでも聞くからさ。好きに喋ってよ」
 普段は私が話し役で、お父さんが聞き役だった。
 だから今日くらい好き勝手にさせてあげようと懐の深いところを見せると、ただでさえ年々小さくなっていくお父さんの体や背中がさらに縮こまり始める。
「いかないでくれよ、マユミー!」
 そう言ってオイオイ泣くお父さんが、二十年間で初めて見た姿で、男の人の涙自体ほとんど見たことがなくて、私もつられて泣いてしまう。

 多分、お互い素面だったらこんな状況はあり得なかっただろうし、アルコールが入ったからこそ、嫁入り前にお父さんの本音をちゃんと聞けたのだ。

 ーーだから私は初めて、お酒も悪くないもんなんだなぁと、ほんの少しだけ思えたのだ。


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