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氷室 エヌさん

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レディキラーにご注意を

18/01/05 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:4件 氷室 エヌ 閲覧数:456

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 二十歳になって、初めての飲み会。お酒に詳しくないと言うと、同じサークルの先輩たちが親身になっていくつものカクテルを紹介してくれた。最初に渡されたのは、オレンジ色の美しい液体に満たされたグラスだった。
「これは何ですか? 綺麗な色ですね」
「それはスクリュードライバー。オレンジジュース主体だから飲みやすいと思うよ」
「はあ、では」
 一口口に含むが、確かに飲みやすい。フルーティーで、まるでジュースみたいだ。お父さんが飲んでるビールしか知らなかったけど、こんなに美味しいんだ。
 カルチャーショックに浸っていたら、別の先輩がカフェオレみたいな色のお酒を差し出してきた。
「いい飲みっぷりだね、こっちも旨いよ。カルーアミルクって知ってる?」
「あ、名前は聞いたことあります」
「こんな甘いの、ほぼコーヒー牛乳だからさ。良かったらどうぞ」
「ありがとうございます」
 初めて飲むカクテルは綺麗で、宝石みたいにキラキラしていて、美味しかった。次第に視界に靄がかかってきて、なんだか訳もなく楽しくなってくる。
「あれ、カオリちゃん酔っちゃった? 顔赤いよ」
「ほら、こっちおいで。他にソルティドッグっていうのもあってさ――」
 にっこりと笑った先輩が手招きをする。また新たなカクテルを飲まされて、どれくらい経過したのか、気付いた時にはもうお開きになる頃だった。
「カオリちゃんどうする? 終電間に合う?」
「あ……間に合わないかも、しれません」
「そっかそっか、じゃあ俺ん家来る?」
「え、でも悪いですよ」
「いや、いいよいいよ。女の子一人で帰らせるほうが物騒だしさ。ほら、もう眠いんでしょ」
 先輩の一人が手を差し出してきて、私はそれに拒むこともなく、ぼんやりとその手を見ていた。自分の体じゃないみたいだった。なんだか頭がふわふわしていて、先輩にこのまま着いていっていいのかどうかも分からない。正直なところ、終電が何時に出るのかも分からない。でももうどうでもいい気分だった。だんだんと眠くなってきて、瞼が自然と降りてくる。
 ――あれ?
「彼女は僕が」
 いつまでたっても触れない手に違和感を覚え、そっと目を開ける。私の前に立ちはだかっていたのは、眼鏡をかけた青年だった。
「はあ? 何だよ浦野、抜け駆けすんなよ」
「急げば終電にも間に合います。彼女とは最寄り駅が同じなので、僕が近くまで送っていきます。それとも先輩方、何か理由があるんですか?」
 眼鏡の彼がそう言うと、先輩たちは黙ってしまった。
 浦野くん――は、確か同じ学年の男子だ。無口でちょっと怖いので、あんまり話したことはないけど。
 彼に腕を引かれながら、居酒屋を出る。駄々をこねる子供を無理矢理連れてくみたいな力強さだった。それはそれとして、火照った頬に夜風が心地よい。
 暫く夜の街を引きずられるように歩いていたが、振り返っても居酒屋が見えなくなってきた頃、それまで無言だった浦野くんが唐突に口を開いた。
「……スクリュードライバーは」
「はい?」
 聞き返すと、彼は堰を切ったように早口でまくし立て始める。
「スクリュードライバーはジュース主体といえどウォッカが入っています。確かに癖はないですが、アルコール度数はそれなりですよ。カルーアミルクも、あの店のは牛乳じゃなくて生クリームを使っているので十五度はあります」
「はあ……?」
 何を言っているのか一瞬分からなかった。さっきまで飲んでいたお酒の説明か、と気付くのに、たっぷり三十秒はかかった。何も言わない私をちらりと見た後で、浦野くんは続ける。
「それと途中で何か食べないと悪酔いします。気をつけてください。貴女は危機管理能力がなさすぎる」
 何を言えばいいのか分からなかったが、とりあえず怒られているらしいということは理解できた。そうか、あれは“危機”だったのか。そんなことを酔った頭で考えながら、また二人で無言になって駅構内に入る。
 ホームには既に電車が停まっていて、私は慌てて乗り込んだ。浦野くんは「それでは」とか言って引き返そうとするので、気になっていたことを尋ねる。
「私たちって、最寄り駅同じなんですか?」
 浦野くんは一瞬だけ言いよどんでこう答えた。
「方便です」
「……助けてくれたんですか」
「解釈はご自由に」
「ありがとうございます」
 そう言って小さく頭を下げると、浦野くんがふっと笑う気配がした。そういえば彼の笑顔を見るのは初めてだ。
「僕が送り狼だったらどうするんですか?」
「おくりおおかみ? 何?」
「……だから貴女は危機管理能力に欠けると言っているんだ」
 また怒られたらしい。その瞬間に電車のドアが間抜けな音を立てて閉まり、電車は走り出す。手を振る浦野くんがだんだんと小さくなっていく。さて、この赤くなった頬はカクテルのせいか、それとも――。


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このストーリーに関するコメント

18/01/07 文月めぐ

拝読いたしました。
甘いお酒と誘惑には気をつけなければいけませんよね。
エンディングの「赤くなった頬」は二通りの解釈ができて、面白かったです。

18/01/07 アシタバ

クールでまじめな浦野くんというキャラクターがとても好印象でした。今後、ふたりがどうなるのかも気になりますね。楽しく読ませていただきました。

18/01/07 氷室 エヌ

>>文月めぐさま
コメントありがとうございました。
お酒に慣れないうちは注意が必要ですよね。
鈍感な主人公なので、どちらでも解釈ができるような終わり方にしたいと思っていました。面白いと言っていただけて嬉しいです。

18/01/07 氷室 エヌ

>>アシタバさま
コメントありがとうございました。
キャラクターを褒めていただき、とても嬉しいです。自分でも気に入っているキャラなので、今後の二人については機会があれば書いてみたいと思っています。

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