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戸松有葉さん

ショートショート:小説投稿サイト「小説家になろう」で1001作以上、本サイト「時空モノガタリ」で入賞複数。 他、長編ライトノベルやエッセイなども。コメディ得意。 Amazon Kindle(電子書籍)http://amzn.to/1Xau7kMで活動中。(←URLは、Kindleストアを著者名「戸松有葉」で検索した結果。)代表作は『ショートショート集厳選集』とラノベの『二次元最高美少女』。 ツイッターは@tomatuariha3lb

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将来の夢 積極的安楽死法案
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液体生物、酒

18/01/04 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:0件 戸松有葉 閲覧数:58

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 獣、虫、菌、ウィルス……人類が太古の昔から戦い続けてきたモノたちだ。多大な犠牲を払いながらも、打ち勝ち、利用さえできるようになった現代では、人類は他生物に勝利したと言っても過言ではないだろう。
 しかし未だに劣勢である、強大な敵もいた。

 液体生物、酒。

 酒から被害を受けると、軽いものでも頭痛や発熱、吐き気を起こし、重くなってくると部分的な記憶喪失や理性崩壊もある。重い症状だと人間同士でのトラブルや事故も引き起こすため、二次被害が深刻だ。そして最悪の場合、急性アルコール中毒で即死亡もあった。
 酒が特異だったのは、直接的な攻撃ではない生存戦略を持っていることだった。
 例えば人間が被害に遭った際、呂律が回らなくなり、魚の「サケ」をうまく発音できず「シャケ」と発音するようになり、定着することで、この世から「サケ」の座を奪うということをしてきた。
 こんな生物など、人間を含めても他にいない。
 酒には謎が多い。高知能体のように振る舞うものの、ただの液体混合物でしかなく、脳はない。また、ウィルスのように高速増殖での進化がないのだから、そうした意味での適応力は持ち合わせていないはずなのに、不滅のウィルスのようにしぶとい。
 唯一はっきりしているのは、厄介な奴ということだ。酒ほど厄介なものはないと、古文書にも出てくるほどである。
 そうして人類が苦しんできた酒が、更なる脅威となって襲いかかってきた――。



「駄目です、トバシが効きません!」
 隊員が悲痛に報告する。
 トバシとは、対酒戦術の一つで、火を中心とした熱により酒からアルコールを飛ばし、無害化させる方法だ。
 しかし今回出現した酒――体積が二十五メートルプール分はありそうな巨大な酒には、通じなかった。
 火は決して弱くない。酒はかつてない巨大さではあったものの、想定内であり、周辺を火で取り囲むことには成功した。酒が自ら火に近付くことはない。時間はかかるが、火の檻を狭めていけば、トバシもやがて成功するはずだった。
 だが巨大な酒は、熱を逆に利用し、上昇気流で水蒸気だけを雲にして、鎮火してきたのだ。
 むろん、雨水程度では消せない火を用意することは可能だったが、ここは既に市街地。火事での被害を出してしまっては本末転倒だ。同じ理由で、ミサイルを打ち込むわけにもいかない。
 だがこのままでは、ゆっくりとだが確実に、酒は動く。人間の避難は間に合うかもしれないが、街の被害は甚大で、避難者たちの生活も苦しいものとなる。
 特別対策本部は決断する。あの酒だけは止めねばならない。体裁を気にしていられはしない。
「『酒豪』の立ち入りを許可する!」
 酒豪とは、民間人で酒と戦う者の通称だ。民間人であり、対策本部の指揮下にはないのだし、本来なら守らねばならない者たちだ。もし彼らに被害が及べば、対策本部全員の首が飛ぶのは必至、そればかりか政府はトップから順に責任を負わされることになる。
 それでも今は賭けるしかなかった。酒を倒してきた実績を持つ酒豪たちに。



「やれやれ、やっとあいつを殺れるのか」
 ひょうたんを片手に、薄い着物の男が言う。
 刀を手入れしていた女も続き、
「ふん、頭でっかちのお国様にはいつも参るね」
 何故正規の公務員である部隊よりも民間人の酒豪が頼れるのか。前者は科学的根拠と法的根拠を基に動くことしかできない。しかし酒には謎が多く、根拠を求めていたのでは存分に戦えないのである。
 酒豪たちは巨大な酒を前にしてもまったく怯む様子がない。皆、肝が座っている。
「酒を倒す方法なんざ、これしかねえ!」
 真正面から挑みかかる男。他の酒豪たちも同様だ。
 酒からの被害は、酒と接触することで受けるのだが、今回のように大きな酒の場合は「飲まれる」と表現されることも多い。実際、飲み込まれてしまう。そして「飲まれる」時ほど、重症を負いやすい。
 酒豪の言う倒す方法とは、至極自然なものだった。やられる前にやる。つまりは――、
「酒に飲まれるんじゃねえ! 酒は飲むもんだ!」
 切っては飲み、ちぎっては飲み、巨大な酒を削って行く。
 だが今回の酒は巨大だ。人間の体積より遥かに大きい、いかなる酒豪であろうとも全て飲むなど不可能……。
 それでも人間には最大の武器があった。
 集団だ。集団で酒を飲みまくる! 浴びないように気を付けながら、浴びるように飲みまくる! ついでにどんちゃん騒ぎをしながら飲みまくる!



 対策本部は安堵していた。酒豪たちの活躍により、巨大な酒さえも地上から消え去った。人類の勝利だ。
 と、そこへ、
「大変です! 酒豪たちの様子が! あれだけの酒を飲んだことはないからか、酒に飲まれた時と同じ症状が出ていて――」

(了)


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