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竹田にぶさん

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ケモノのムラ

18/01/01 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:0件 竹田にぶ 閲覧数:106

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 東西を急峻な山々で囲まれた山間にムラがあった。北は大国、南は新興国に接しながら、どちらの国の支配も受けずにきたのには理由がある。交通の要という地の利を活かし、交易で財をなした。それも一つ。もう一つは、妖の術である。
 この時代の戦は、肉と肉がぶつかり合う戦である。世が下り、兵器を使って指先一つで幾十幾百の相手を倒すのとは、戦いの根本が違う。自らの腕を振り上げ、なぎ倒し、突き刺し、体重をかけ、馬乗りになり、一人一人と対峙していく。文字通り、全身全霊の戦いだ。しかし、命懸けとはいえ、体はいつまでも意のままに動くわけではない。疲れも出てくる。それに抗い、勝ち進めるのに必要なものは、気力だ。より広く言えば、気である。現代的には、アドレナリンやエピネフリンなどの脳内麻薬の作用になるのだろう。気が高まれば、高揚感がもたらされ、疲れを感じなくなる。戦場の男はその事を頭ではなく、体で知っていた。それゆえに、気を上げるためには、何でも利用した。吉凶の占いや縁起が、戦場で重視されたのも道理である。上杉謙信の『謙信軍記』には占星術が書き記され、武田信玄の『甲陽軍鑑』には護摩灌頂を行った件がある。
 一方、その気を逆手にも取った。自らの気を高めるのではなく、相手の気を下げるのだ。例えば、応仁・文明の乱で、細川勝元は「五壇の法」を行った。敵調伏である。しかし、敵調伏を記した史料は少ない。なぜなら、それは秘法中の秘法だった。むしろ「五壇の法」は例外と言えよう。
 山間のこのムラには、一国と正面をきってやり合う兵力はない。一も二にも交渉。戦を避けるのが最善の策である。そのために間者も多用した。そのお陰で、小競り合いもほとんど起きなかった。しかし、どんなに手を尽くしても、時に武を交えざるを得ない。戦となればムラに出来ることはただ一つ。相手の兵力、引いては気をいかに削ぐか、そこに心血が注がれた。
 間者により、相手方の戦支度の知らせがもたらされると、ムラ長は主たる男共を集めて寄合を開く。
 ムラで最も恵まれない女は誰か。
 本来なら場が一つになるまで、何度も何度も話し合う。しかし、この時は男共が同じ名を口にした。オマリだ。オマリは、畑仕事中に野武士に襲われ、目の前で夫と子供が手にかけられた。自身も野武士の慰みものになるところであったが、すんでのところで、腰に隠した鎌で、野武士の首を引き切った。以来、オマリは呆けた。
 オマリは男共によってムラ外れの祠に連れていかれた。ムラは宿場街の関を越えると、すぐに深い森になる。人一人がやっと通れるつづら折りの道が続くが、その外れにムラでも一部の者しか知らない獣道がある。祠に続く獣道だ。
 男衆三人で、祠に火を焚き、オマリを火の前に座らせて、三日三晩囲む。水は与えるが、食べ物は与えず、眠らせもしない。排泄はその場で垂れ流させる。その間、男共はオマリをじっと見つめている。三日目の晩に、オマリの意識は朦朧となる。そこで男共はオマリの手足を縛り、自由を奪う。そして、気付けに猪の血を混ぜた酒を口に含ませ、オマリに向かって大声で囃し立てる。オマリを襲った野武士をもう一度、オマリの頭の中に蘇らせるために言葉の限りを尽くす。オマリは見開いた目を釣り上げ、体を震わせる。呻きが叫び声に変わるまで、男共はオマリを囃し立てる。オマリの声は次第に獣の声となる。その獣の声に変わったのを合図に、男共はオマリを棒に括りつけて、それを担いで山中を練り歩く。オマリの獣声が森の中に響き渡る。その声は森の生き物をざわめかせる。呪術の完成である。
 この状態で森に足を踏み入れると、多くの者は一歩も先に進めない。異様な雰囲気が森に漂っている。森の闇はいつもより漆黒を増し、その至る所から獣共の赤い視線が注がれている。偉丈夫の満ち満ちた気であっても一息に削がれる。それでも歩を進めると、獣共が襲いかかる。猪や鹿だけでなく、狸も兎も襲ってくる。研ぎ澄まされた鉄の刃も、獣の群れの前には、為すすべがない。そこへ高台に潜んでいた男共が矢を仕掛け、鯨波を上げる。声は山々に響いて増幅し、あたかも数万の軍勢が備えているかの如くである。すっかり気が削がれたところに、これではたまらない。兵は我先にと退いていく。かくして、ムラは長いこと独立を保ってきた。
 通常、術をなした女は森に捧げられてきた。しかし、オマリはムラに戻された。オマリにとって、これが二度目の術であった。一度目の時、オマリは自らムラに戻ってきた。三度目もあるやもしれない。

(了)


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