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大久保 舞さん

無名のフリーライターをやっていますが、小説家になるために本格的に活動してみることにしました。 ショートショートは読むのも書くのも大好きです。 普段はカクヨムメインで活動中。 https://kakuyomu.jp/users/mai_ookubo アイコンは大好きな漫画家の巳年キリンさんに描いて頂きました。

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父とのお酒

18/01/01 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:0件 大久保 舞 閲覧数:81

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私は、お酒が大嫌いだった。

私の父は大酒飲みで、食事の時も、水のかわりにお酒を飲むような人だった。
普段は真面目で厳格な性格をしている父が、お酒を飲んで酔っ払うと、いきなり性格が変わる。

酔っ払いになると下品なことばかり言って、一人でゲラゲラと笑う。
そんな時の父とは、一緒にいるのが本当に苦痛だった。

それでも、酔っ払った父の相手をするのは私だった。
父と母は仲が悪かったから、母はようは父の世話を私に押し付けていたのだ。

「また、適当に相手して、ご機嫌とってきてよ」
と言う母に、怒りをおさえるのが必死だった。
母が悪いのではなく、父の酒癖が悪いのだと、分かってはいたのだが。

「お前が成人したら、一緒に酒が飲みたいな!」
父は良くそう言って、楽しそうにしていた。
私は、心の中で『成人しても、お父さんとは絶対に酒を飲まないけどね』と思っていたのだが。

父のささやかな願いは、叶うことはなかった。
父は、私が成人する前に、亡くなってしまったからだ。
皮肉なことに、肝臓は綺麗な状態で、お酒とは因果関係のない病気での死だった。

私は、お酒というか、酒癖の悪い人間が嫌いだったから、酒を一滴も飲めない、下戸の人と結婚した。
ところが、結婚してから数年後の年末に、夫が突然「お酒が飲みたい」と言い出したのだ。
私は、下戸のあなたがなんで、と、驚きを隠せなかった。

「だって、お義父さんのお墓参り、ずっと行っていないんだろう?」

そう。私は、父の墓参りにずっと行っていなかった。
色々と事情はあったのだが、ただ単純に、父の死を受け入れたくなかったからかもしれない。
墓参りに行くということは、もう生きている父には二度と会えないのだと、思い知らされてしまうから。

「だからって、あなたがなんでお酒を飲むのよ」
そう聞く私に、夫は「お義父さん、お酒が好きな人だったんだろう?じゃあ、一緒に飲んであげないと」
「娘さんを僕にください、って、もうもらってるけど、改めて挨拶もしたいしな」と言って、笑った。

「新年だからこそ、お墓参りに行くんだよ」
その旦那の言葉に押されて、新年に父のお墓参りに行くことにした。

山奥にある父のお墓は、とても汚れていた。
誰も訪れていなかったのだろう。
それを、泣きながら夫が綺麗にしてくれている。
この人と結婚して良かった、と私は思った。

買っておいたお酒を何本か、お墓にお供えする。
「乾杯!」そう言って、飲めもしないお酒をどうしようかと、夫が悪戦苦闘していた。

私は、父が好きだったお酒を一気飲みしてやった。


お父さん。

やっと、一緒にお酒が飲めたね。


今年はきっと、良い年になることだろう。


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