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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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かりものや

17/12/31 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:1件 そらの珊瑚 閲覧数:103

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お玉小町と呼ばれるお玉ちゃんには親友の女がいた。幼馴染の二匹はナツメの実を揺らして遊んだものだった。そのナツメの樹には鋼のようにりりしい羽を持つ玉虫の若い男が住んでいた。玉虫の女達は皆、その男とワルツを踊りたいと願ったさ。もちろんその二匹もね。けれど勝負は最初からついてるようなもの。小町と呼ばれるほどの器量良しと、さえない平凡な玉虫では結果は分かるだろ。お玉ちゃんとその男は、舞踏会に一緒にワルツを踊ろうと約束していたらしい。
 ある日、女友達はお玉ちゃんにこう持ちかけた。
「ねえお玉ちゃん、一度でいいから私の羽と交換しておくれよ。友達じゃないか。明日の舞踏会までには返すからさ」
 お玉ちゃんは心根の優しい子だった。快く羽を取り替えてくれた。
 
 羽を取り替えるのはどうやるのかって? 
 たいして難しい事はないよ。ほおずきの中身を羽の付け根に塗っておくだけさ。あれは、はがし薬だからね。けれど薬ってのは毒でもあるんだ。いつまでも塗ってちゃいけない。ほんの一刻だけだよ。そのさじ加減さえ間違えなかったら上手くいく。羽がぐらぐらしてきたら一気にはがす。なあに、痛い事なんてない。何事も思い切りが肝心。そしてほおずきが乾かないうちに交換した羽をお互いに押し付けあうのさ。

 ええっと、どこまで話したかね。嫌になっちまう。最近、物忘れが進んじまって。

 ああ、思い出した。
 美しくなった女友達は嬉しさのあまり、返すのが惜しくなった。そのまま翌日の舞踏会に出てナツメの樹の男とワルツを踊ってしまった。男が虫間違いに気づいたのはワルツを踊ったあと。後悔したが手遅れだ。掟は破れない。結婚するしかなかったのさ。お玉ちゃんはどうしたかって? 聞きたいかい。

 ひぐらしの声が一段と強くなった。ひと夏で老いて逝く自らの命を惜しむかのような哀しい音色だった。
 
 お玉ちゃんは悲嘆にくれた。無理もないよ。友情にも愛情にも裏切られたんだからね。そのまま地獄谷に身を投げたのさ。
「地獄谷ですって? アリジゴクが住むという怖ろしいところですわね」ハイデはぶるっと身震いをした。
 
 真の絶望とはそういうものなんだろう。
 地獄に落ちるべきは、その女友達のほうなのに。
 かつての恋人ナツメの樹の男はそれを聞き、お玉ちゃんの後を追い、同じように地獄谷に身を投げた。あとには二組の羽だけが、打ち上げられたヨットの帆のように残されてあった。
 女友達は取り返しのつかない事をやってしまったと真っ青になって地獄谷へ急いだ。そして自分もそこへ身を投げたのさ。けれど丁度通りかかった蜻蛉に助け上げられてしまう。仕方なく地獄谷に残された二組の羽も蜻蛉に拾い上げてもらい家に持って帰った。そして自分の羽にほおずきをつけ羽を取った。元はお玉ちゃんの羽。持ち帰った本当の自分の羽をつけ泣き続けた。たった一晩で羽は真っ白になってしまった。
 女友達が弔い虫になったのはそれからさ。死ぬことさえ叶わない、そう、地獄にさえ行けない弔い虫に。
 それを聞いてハイデは、はっとした。
「もしかして……」
 その女友達って、眼の前にいる白い羽のかりものやを営む老虫? けれどそれは聞いてはいけない事のような気がした。魔がさすという事はなんと怖ろしい事だろう。
「しょせん自分が今持っていると思っているもの、それらは全てかりもの。命だって、かりものに過ぎないのかもしれないねえ。ハイデさんにこんな事いうのも客商売なのに妙と思われるかもしれないが、傷のある羽は案外いいものかもしれないよ」
「えっそうでしょうか」
「ああ、算法っていう学問があるだろ。答えが出ない時に補助線っていうのを引くらしいよ。そしたら答えが見えることもあるそうさ。ハイデさんの傷もその補助線と考えたらどうだろう」
 生まれつきこの身にある真一文字の傷が? この傷の為に今まで惨めな思いをしてきた。だけど。そうだとしたら、ここで美しい羽を借りそれと付け替えて舞踏会に出るのは浅はかな考えかもしれない、とハイデは思った。
「昔話をありがとうございました。羽をお借りするのはやめておきます」
「それがいいね。夜も更けてきた。良かったら泊まっておいき」
 窓から入り込んだ蛍が店の中をぼんやり照らしている。ほおずきのクッションで一晩寝かせてもらったハイデは翌朝、森へ帰っていった。
「おや?」
 見送るかりものやに、昨日まであったはずのハイデの羽の傷が見えない。老眼が進んだのか。それともほおずきのエッセンスが一晩中ハイデの羽に沁み込んだ事で、傷を消してくれたのか。
 毒は薬でもあった……。
 半分は黄泉の国でもあるこの店に千年ぶりに訪ねてきた若い女の未来の幸を、老虫の女は心の隅で願った。
 朝陽が差し込み、店の奥に置かれた二組の玉虫の羽がきらきらと輝き出した。
 


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このストーリーに関するコメント

17/12/31 そらの珊瑚

改行して投稿したのですが、なぜか反映されていなかったようです。
(改行したところは一文字スペースあけになっているようです)
読みづらくて申し訳ありません。

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