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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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ジュークボックスは語らない

17/12/30 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:127

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「詩人Kが酔っ払い早退だ?」
 聞き取れていないならそう言えばいいのに。彼は言葉遊びが好きな人で面倒くさい。
「視神経が引っ張られ放題だって言ったのよ」
「風で耳の中がいっぱいだから声が聞こえにくいんだよ。最高だな」
 カジノへ続く砂漠地帯のハイウェイは舗装された路が一本で、私と彼は迷うこともできずにオープンカーで直進を続けていた。あまりにも確実すぎる正しい道行が人を不安にさせることを初めて知る。最高か、彼が私のように不確かな人でなくて良かったな。言葉遊び好きで面倒、マイナスいち。確かすぎる直進にも不安を感じないプラスいち。
 乾いた風だけが私と彼の他の存在としてある。対向車が姿を消したまま、彼はハンドルすらも時折ふざけて足で操作する。いつブーツを脱いだんだろう。危ないとも思えない真っすぐすぎる道。現れない対向車後続車。この果てに落っこちるのかもしれないと、サングラスを外す勇気が出ない私に、彼は言う。
「…………」 
「聞こえないわよ!! 風!!」
「仕留めちゃったよ、亀? 可愛そうなことするなよ。亀は可愛いぞ」
「もう」
 やれやれと、私はシートからお尻をずり下げる。少し眠るわ。退屈なら風と遊びなさい。目が覚めたら起きるから、それまで寝かせておいて。
「おい、誰か立ってるぞ」
「もう」
 サングラスをおでこにずらして色のある世界を網膜に貼り付ける。解散した黒のフェスティバルが祭りの後の寂しさを眼底に残して行った。
「ヒッチハイカー、じゃ、なさそうかしら?」
「にしても、声は掛けてやろうぜ、コインを賭ける前に、前哨戦の一勝負といこう」
 返事はしない。彼も求めてはこない。言いたいだけなのだ。罪はない。ハイウェイの時速120キロに引きちぎられていく標識や鉄塔、形のいいサボテンなどは、車の背後に回った瞬間に消失しているだろうが、あの誰かは消していいのか、いけないのか。そうね、その確認のために、声はかけてあげないと。車がスピードをおとす。回転数が下がったタイヤにきっと賭けることのできないコインが数えられるだろうと、彼は思っているかな、いないかな。
「乗るかい?」
 男とも女とも見た目に判断がしづらい誰かは、真四角な木製のトランクに腰掛けて何処でもない彼方に視神経を引っ張らせていた。詩人Kとわざと間違える連れ合いもないのは、羨ましいいや、寂しそう。
「なぜ?」
 声からも、性別が判別できない。彼はどっちだと思ってるのかな。彼が女、で、私が男。そんなものかな。
「なぜって、まだ街まで車で数時間はあるぜ。不思議と対向車も後続車もからっきしなんだ。次がいつになるかもわからないし。俺と彼女はこう見えても無害なんだ。生き甲斐はカジノのルーレットでね、イキがってたティーン時代はもう十年も前のことさ、乗れよ」
「ねぇ、事情があるんでしょうけど、話したくないならいいわよ。街であなたは降りる。それだけよ。乗れば?」
「なぜ?」
 誰かは繰り返す。頭がおかしいのかしら? でもここにいるということは、車を運転して来たか、誰かの横に乗って来たかよね。おかしいから、置いていかれたのかな。
「置いていく?」
「ノー」
 いざとなると、彼はふざけないし、動きに無駄がない。颯爽と車を跳び出し、誰かに近づく。
「一体、どうしたんだ」
 誰かは彼を見ようともしないで、諦めたように言った。口は微かに動いている。
「ボクはジュークボックスなんだ」
「ここから動くわけに行かない」
「コインをどうぞ。語る」
 語る? 私はサングラスを目の位置に戻す。怖いと思ったからだ。黒のフェスティバルに逃げる。ちょっと。彼は上着のポケットからコインを取り出している。
 チャリンの代わりにゴクン。誰かの喉に突起は見られない。僕という女? 喉仏のない男? ジュークボックスは機械なのよ。人間じゃない。それに、ジュークボックスは語らない。
「ボクは三年前に気が付いたんだ。自分が何もできないことに。空を飛べないことと同じように、ボクは人を好きにもなれないし、ボクは美味いサンドイッチも作れない。母さんを病院へ連れていくことも、姉さんを更生させることもできない。だからボクはここでジュークボックスになった。コインを飲んで、僕の人生という名前の悲劇を語る。コインを入れたあなたが悪い」
 誰かの悲劇を、悲劇のままに。
 外から眺める男と女は、スクリーンの中でカジノに興じる。
 彼は色の抜けた声で語り続ける誰かをトランクごと持ち上げると後部座席に放り込んだ。
 私はサングラスをおでこに。
「ルーレットのルールは知ってる?」
「寝てればすぐに街だぜ」
 ハイウェイを真っすぐ。後部座席のジュークボックスはきっと一人で泣きすぎたんだと思うから、三人でしばらく遊ぼうか。
  


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