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マサフトさん

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あの頃と今頃

17/12/27 コンテスト(テーマ):第151回 時空モノガタリ文学賞 【 あばずれ 】 コメント:0件 マサフト 閲覧数:304

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数年ぶりに高校時代の友人と再会し、繁華街で飲み交わしていたのだが、その友人が風俗にハマっているらしく、近くの風俗店に連れ込まれてしまった。酒の力は恐ろしい。最初は断ったが、酔った勢いと旧交を温めた嬉しさに浮かれてつい流されてしまった。
元々こういった店は居心地が悪いので苦手だった(入ったのは初めてだが)。性欲と金欲に塗れながらも、店と客の暗黙の了解といったヴェールで表面を取り繕った、歪んだ空間。薄暗い店内と、見た目だけ豪華に見えるイミテーションの調度品がよくよくそれを表している。
それと、ここの女性たちは何が悲しくてこんなところで働く羽目になってしまったのか。いやきっと事情はある。止むに止まれずここで働くしか手段がなかったのだろう。僕は女ではないから身を売るという事がどれ程の事なのかいまいち想像がつかないが、つい同情してしまう。同情してしまうと、彼女たちをどうこうする気になれないのだ。
右も左も分からないので、金だけ渡して会計だのお相手を選ぶだのは友人に任せた。彼は手馴れた手つきで女性を指名して、さっさと会計を済ませた。何回通ってるんだ?安い趣味でもなかろうに。

そうこうしている内に、僕のお相手が店の奥から来て、個室に移動した。ベッドに座り、すぐ隣にお相手が座った。真横でほとんど半裸の服を着て、ベッドに座っている彼女の口元は、歪な笑みを浮かべていた。目は当然笑っていない。「お仕事ですから」と言わんばかりの営業スマイル。
「こういう店は始めてだから、どうしたら良いのなわからないんだけど」
「ああそうだったんですね〜。緊張しなくて大丈夫ですよ〜。まずお風呂入っちゃいましょうか」
彼女は柔和な口調でテキパキと仕事に取り掛かった。
「いや、実は悪い友達に無理やり連れてこられてね、その、あんまりそういう気分じゃないんだ。悪いんだけど、時間終わるまでこのままで良いよ」
悪いんだけど、などとまた思ってもいない気遣いをしてしまった。僕の悪い癖だ。まぁ実際そんな気分じゃなから嘘はついていない。
「そうなんですか〜」
彼女すこし残念そうな顔をした。なぜ、残念そうな顔をする?君は2、3会話して時間が過ぎるのを待つだけで、何もしなくて良いんだぞ?いや、残念そうなフリか。営業だ。

あれ?この人の顔、この声、まさか。彼女の存在が記憶の片隅をつつく。まさか、中学校の時の同級生?それも、僕の初恋の人。

「お前、まだ告ってないのか?」
「だって、さぁ。怖いんだよ。フラれたらどういう顔して学校通えば良いんだよ」
「告白する前からそれじゃ、元から脈なしだわ。ヘタレ」

僕には、怖かった。初めて好きな人ができたときめきをその人に否定されるのが。拒否されるくらいなら気持ちを伝えたくなかった。結局想いを伝えることもなく逃げてしまった。
その人が今、目の前にいる。しかもこんな場所で。告白どころかいろんな過程をすっ飛ばしてお膳が据えられている。向こうはまだ気づいていない様だ。何があったのか聞きたい。会わなくなってからどうしていたのか。何があってここに居るのか。この何から何まで作り物の館で、なぜこんな仕事をしているのか。

しかし、また僕は逃げた。そんなこと聞いて僕にはどうこうできないし、何より僕が僕だとバレるのが怖かった。中学の頃から本質は何も変わっていなかった。いくつか適当な世間話をしてやり過ごし、終了時間を迎えた。彼女は毒にも薬にもならない世間話を屈託のない笑顔で聞いてくれていた。作り物ではない笑顔で。

「会えて嬉しかったよ。佐藤くん。バイバイ」
部屋を出るとき、僕の背中に彼女は言った。僕が僕だと気づいていたのだ。声だけ聞くと、振り向けば中学生の頃のままの彼女がいる気がした。でも、振り向かずに部屋を出た。彼女と会話して良い時間はもう終わっている。
そして唐突に理解した。彼女はプロフェッショナルなんだ。だから最初残念そうな顔をしたのだ。きっと、この店のどの女性を選んで同じことをしても、皆一瞬残念そうな顔をするだろう。フリだろうと、本心だろうと。彼女たちに同情してしまうのは大変な失礼だったのだ。
それでも、もしあの頃。世界を知らなかったあの頃。未来を知らなかったあの頃。僕が彼女に告白していたなら、今という時間は少しは変わっていたのかもしれない。再び出会う場所がこの欲望の館ではなかったのかもしれない。もうこの店に来ることはないだろう。甘い夢は一晩で充分だった。

「あ、あの、筆箱、廊下に落ちてたよ。き、君のだよね」
「あ、ほんとだ。ありがとう佐藤くん」
「え?なんで名前知って…」
「名札に書いてあるじゃん。あはは。でもなんで私の筆箱だって分かったの?」
「筆箱に名前書いてあるじゃん」
「そーだった。あはは。お互い様だね」


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