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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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魔性の女

17/12/24 コンテスト(テーマ):第151回 時空モノガタリ文学賞 【 あばずれ 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:216

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 同僚の加藤といったバーで、はじめて健司はこの店の女ミキを目にとめた。一瞥するなり、その神秘的な瞳の彼女に魅了された。カウンターのむこうからこちらのグラスに酒をつぐ、そつのないしぐさにもなんともいえない艶めかしさがうかがえた。
「よせ、よせ」
 ミキに熱いまなざしを送る健司に、たしなめるように加藤がいった。
「なにがよせだ」
 加藤は、彼女がべつの客のほうにいくのをみてから、声を低めて、
「わるいことはいわない、あの女だけはやめとけ」
「どうして」
「おぬしの身のためだ。あれは、とんでもないあばずれだよ」
「ふられた腹いせにいってるんじゃないのか」
 痛いところをつかれたとばかり、鼻の頭をかきながらも加藤は、
「そこまでいうなら、彼女今夜は早番でもうすぐ引けるから、家までつけていってみなよ」
「なんだ、彼女は男とすんでるのか」
「ひとりだ。それだけは俺が保証する」
 加藤がなにをいいたいのかはかりかねた健司だったが、彼がどれだけ水を差そうと彼女に抱いた気持ちはそれからも健司のなかでふくらみつづけた。
 10時に店をおえた彼女のあとを、本気で健司はつけはじめた。タクシーにも乗らず徒歩で、30分ほど歩いたところで、いま彼が生垣のあいだからのぞいている平屋の一軒家に彼女ははいっていった。
 ここにきて健司は、途方に暮れてしまった。彼女のあとをつけてきたのはいいが、まさか家にはいりこむわけにもいかず、加藤のうながしに軽々しくしたがった自分がいまになってばかにおもえた。
 いきなり、窓が音をたててひらいた。はっとして健司は生垣に身を隠すと、繁みのすきまからいまひらいた窓のほうに目をやった。
 室内は明るい照明にみちていた。その下に、こちらをむいて立つ彼女の全身がくっきりとうかびあがった。おもむろに彼女が上着をぬぎはじめたのはその直後のことだった。窓もカーテンも依然として開け放たれたなかで、彼女は恥じらう様子もみせずに着ているものをぬいでいた。
 そのあまりの大胆さに、健司は毒気を抜かれたかたちで、彼女が肌をすべて露出するまでのあいだ、ただ茫然とたちすくんでいた。
 彼女は裸身のまま、タバコをくゆらせた。その、まるで男を挑発しているかのようなふるまいは、健司をたじろがせるにあまりあった。一軒家とはいえ、周囲の道をゆききする通行人はすくなくない。どこからでもたやすく窓のなかの彼女をみることができた。
 健司は吐息をつくなり、生垣から離れた。加藤のいっていた意味が、これでわかった。たしかに彼女は、あばずれ以外のなにものでもなかった。自分なんかの手に負える相手では到底ない。惨めな敗北感にさいなまれながら彼は、すごすごと道を引き返しはじめた。

 ミキは、生垣に身をひそめていた男がたちさっていくのを確かめると、窓をしめ、カーテンを閉ざした。もともと吸わないタバコをもみけしてから、衣服を身にまとった。このところ、毎日のようにこの行動はくりかえされいる。
 大抵の男たちは、こんな自分をみて、あっけにとられて逃げ去っていった。おかけでこれまで、一人の男性からも指いっぽんふれられることはなかった。
 刑務所から彼が出所してくるまでの間は、自分は性悪女、あばずれをとおしつづけるのだ。
 嫌いな男にむりやり部屋につれこまれ、乱暴される直前にとびこんできた彼と男が乱闘になり、気づいたときには男の胸に彼の手にしたナイフが突き刺さっていた。インテリで、非力な彼が、彼女を助けたい一心でやった命がけのふるまいだった。
 男は死に、彼は殺人罪で10年の懲役ときまった。5年前の話だ。そのときから彼女は、彼がでてくるまでこの身は自分で守ることにした。しかしさまざまな男たちがつぎつぎと、本能むきだしで挑んでくる。守るのではなくぎゃくにさらけだすことによって相手はむしろひるむのが経験でわかった。それ以来、窓をあけたままで着替えするようになった。それから後も毎日のように男たちがあとをつけてきたが、いまの男のようにみな、あわてふためいて退散していくのがオチだった。
 ――あら、また新顔が生垣のあいだから、こちらをのぞきこんでいる。ドアはあいてるのよ、遠慮なくどうぞ。……はいってくるだけの勇気はないらしいわね。それじゃその場から、私のショーでもごらんになって。一枚、また一枚、ぬぎすてた衣服が足もとにかさなりおちるうちに、男のテンションがあがっていくのが彼女には手にとるようにわかった。
 彼女は椅子に片足をのせると、すべすべとした太ももを、外にむかっておもいきりひろげてみせた。
 あらためて生垣をみたときにはすでにそこには誰もいなくなっていた。
 魔性という言葉は、女のためにある。だんだんと彼女にも、その意味がわかるようになってきた。



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このストーリーに関するコメント

18/01/08 黒谷丹鵺

拝読いたしました。面白かったです。鮮やかな反転に魅せられ、艶やかな場面に息を飲みました。

18/01/18 W・アーム・スープレックス

返事が遅れ、失礼しました。
この作品の発想は、浅川マキの「かもめ」という歌から得ました。よかったら、聴いてみてください。

18/02/17 光石七

拝読しました。
身を守るためにあばずれ女を演じる……。
ミキの恋人を思う一途さと大胆な行為を繰り返すことで開花していく「魔性」の二面性が魅力的でした。
面白かったです!

18/02/21 W・アーム・スープレックス

こういう女性に巡り合ったら、私も生垣のこちらからのぞくだけが精いっぱいだとおもいます。けれども、こういう女性もいてほしいなとおもうのは、男のさがというやつでしょうか。
遅くなってしまい、失礼しました。

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