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氷室 エヌさん

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君の好きな人になれない

17/12/24 コンテスト(テーマ):第151回 時空モノガタリ文学賞 【 あばずれ 】 コメント:0件 氷室 エヌ 閲覧数:142

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 私の友達は彼氏を取っ替え引っ替えしていることで有名で、「あばずれ」だなんて不名誉な記号で呼ばれていて、実際それは真実で、彼女は今月に入ってもう二人と別れて三人目の男の子と付き合っている。
 彼女は恐ろしくモテる。病的なまでに。普段は彼女をあばずれと呼んで毛嫌いしている男子も、一度彼女の瞳に見つめられたら骨抜きにされてしまう。
 そういう魔法みたいな力を持った彼女は、当然クラスの、いや学年の女子全員から嫌われていた。彼氏を寝取られた子もいるらしい、なんて噂もある。男子より女子のほうが攻撃は露骨で、「あばずれ」より酷い言葉を投げかけたり、彼女の持ち物を隠したりしているようだった。
 でも彼女は気にしない。全然気にしない。すれ違いざまに悪口を呟かれても、隣にいる私に「今の聞いた?」と笑いかけるだけだ。そして彼女は新しいボーイフレンドを手に入れる。彼女は悪意を跳ね返してなおきらきらと輝いている。
「――だからほら、このニットどうかなって。ねえ、聞いてる?」
「ん、うん」
 聞いてなかった。放課後、目の前に座る私の友人、件の彼女は、ティーン向けのファッション誌を開いて私に見せる。
「これ、可愛いでしょ」
「似合うだろうね」
 貴女なら、という言葉は飲み込んでおく。私には似合わないだろう。誌面の赤いシャギーニットは確かに可愛いが、ちょっと派手すぎる。
 こんなにもモテる彼女が、どうして私みたいな地味な女子と連んでいるのか、私には分からなかった。彼女なら一人だって生きていけるだろう。それは孤独じゃなくて孤高だ。
 彼女は女子に嫌われていて私以外に友達はいない。クラスの女子は「絡まれて可哀想だね」なんて的外れの慰めを私にかけるけど、皆は全然分かってない。彼女はとても優しいし、絶対人の悪口は言わないし、体の隅々まできらきらしてる。あばずれなんて呼び名も、この子がどんなにいい子か知らないからそんなことが言えるんだ。
「アンタだって似合うよ。今度一緒にこのショップ見に行こう」
「……うん、いいよ」
 一拍遅れてそう答えると、目の前の彼女は眉をひそめてこちらを覗き込んだ。思わずドキッとする。
「なんか上の空じゃない? 別のこと考えてるでしょ」
「え、いやそんなこと」
「あるよ。何? まさかクラスの連中に何か言われた?」
 自分以外に向く悪意に慣れていない彼女は、少しだけ瞳を揺らした。私は慌てて「違うよ」と否定する。
「そうじゃなくて、なんで私なんかと一緒にいてくれるのかなって」
 疑問を口にすると、彼女は「はあ!?」と大げさに言った。
「なんでって……好きだからに決まってんじゃん」
「でも、私地味だよ」
「関係ない。てか地味じゃないし。可愛いじゃんアンタ」
 嘘をつかないタイプなのは分かっているので、素直に受け取ることにした。だからこそ、こんな彼女が皆に毛嫌いされているのが納得いかない。
「皆、貴女のこと勘違いしてるんだよ。本当は優しいのに。表面しか見てない」
「……そんなことないよ」
 彼女は先程よりも、幾分弱々しく否定した。
「あたしが優しく見えるんならそれは、アンタが優しいってことなんじゃない?」
「そう、なのかな」
「そうだよ」
 なんだか丸め込まれてしまったような気がするけど、それ以上は聞かなかった。私は物のついでのように、次の質問を投げかける。
「あとさ、どうしてたくさんの男の子付き合うの?」
 そう尋ねると、彼女は私を見つめた。いや、私の向こうにある何かを見ているような遠い目をしていた。
「――本命が振り向いてくれないから」
 恋する女の子の瞳が私を射抜く。宇宙を切り取ったみたいな双眸はパワーに満ちていた。嗚呼、よっぽどその人のことが好きなんだ。
「その人、見る目ないんだね」
「うん、あたしもそう思う。こんな可愛い子が目の前にいて感づかないなんてね」
 目の前? その言葉に違和感を覚えつつ、私は続ける。
「鈍感なんだね。そんな人やめとけば?」
「それは無理そうなんだよね」
 難儀な話だと思った。彼女が戯れに、私の頬に手を伸ばす。手の甲で何度か撫でられ、私はくすぐったくて身を捩る。
「……私が男だったら、絶対貴女のこと好きになるのにな」
 そう言うと、彼女は一瞬唇を噛みしめて、そうしてから無理に笑った。
「……ありがと、嘘でも嬉しい」
 嘘じゃないよ、とは言えなかった。彼女はなぜか傷ついたみたいな顔をしていて、子供を慈しむ母親みたいに私の頬を撫でるだけだった。
 願わくば。願わくば彼女がその好きな人と結ばれて、誰もが祝福するようなカップルになりますように。そんなことを考えて、私は頬に触れる彼女の手を取った。
「で、その本命って誰なの? うちのクラス?」
「……アンタにだけは教えない」
 彼女は僅かに震えた声で、けれども笑ってそう答えた。


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