- トップページ
- アヴァンスレイブハニー
浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。
性別 | 男性 |
---|---|
将来の夢 | |
座右の銘 |
投稿済みの作品
コメント・評価を投稿する
コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。
このストーリーに関するコメント
18/01/13 凸山▲@感想を書きたい
拝読しました。
己の境遇を科学技術が解消してくれない、と怒り心頭な主人公の情緒不安定さが際立っていました。『性欲処理』を目的としていたアンドロイドが脱走までしたのは何故なのか。とはいえ、言葉が通じ、コーヒーを入れ、ご飯を作って、時折笑顔を向けてくれることで、主人公は安堵の気持ちでいっぱいになる。まさに欲求を満たしている。研究は成功していたのだろうと平和な思いになりました。
18/02/06 待井小雨
拝読させていただきました。
せっかく「性」に縛られずに愛せると思っていたのに、その対象が「性」のために存在するものだった……。どこかやるせなさを感じます。
それでも、主人公には「そんなの関係ない」と言ってほしかったです。真実を知っても好きなものは好きでいてほしかったな、と思いました。
18/02/14 浅月庵
凸山▲@感想を書きたい様
遅ればせながらご感想ありがとうございました。
ある種、主人公の欲求を別の意味で解消し、
なおかつアンドロイドに感じられなかった心を
感じられたので、これもまた成功の一つなのかもしれませんね。
待井小雨様
ラストについては悩みましたが、
これも人間の自分でコントロールのつかない
心の弱さだったりするのかなと思って書いてみました。
ご感想ありがとうございました。
ピックアップ作品
俺がこの世に“生”を享けた頃とは比べものにならないほど、科学技術は進歩しているというのに、俺の“性”機能不全を解消してくれる手立ては見つからないらしい。その所為で俺は、最愛の恋人にも逃げられてしまった。
男としてのすべてを否定された俺はムシャクシャしていたので、行きつけのバーで酒を呷る。
ただ普段より倍以上のアルコールを摂取したというのに、酔いは怒りの輪郭をぼやかしてなんかくれなかった。
会計を済ませると、コートを羽織り外にでる。身を震わせる冷たい風も、夜空に浮かぶ星々も、俺の心に落とされた火を鎮火させる力は持ち合わせていないようだ。
だから、俺がもう一軒ハシゴしようかと決めあぐねている最中に、一人の女性が四人ほどの男たちに囲まれている様子が視界に入ったとき、ストレス解消のチャンスだと思ったんだ。
ーーブレーキが壊れたトラックのように俺は男たちの元へ走り寄ると、一人の後頭部に飛び蹴りをかましてやった。次から次へと俺は、まるでモグラ叩きみたいにそいつらをボコボコにして、あっという間のクッキング。辺りにはケチャップが惜し気もなく散っていて、俺はその“赤”を見てようやく胸をスッとさせる。
「大丈夫か?」俺は先ほどまで強姦される寸前だった女の元へ近づく。
すると彼女は衣服の乱れもそのままに、微動だにしないでそこに突っ立っていた。
俺は女に違和感を覚え、彼女の顔に自分の顔を寄せる。女の眼球には、一目で到底覚えられそうにない数字の羅列が表示されていた。
「やっぱりシリアルが出てる。アンドロイドかよ」
肉体労働用や医療用、あるいは軍事用など人型アンドロイドが社会に進出して数年が経つ。それらは実際の人間と見分けがつかないほど精巧に作られた代物ではあったが、やはりこいつらにはどこか“心”が感じられない。
俺は彼女の胸元まで上げられた衣服をなんの気なしに戻すと、雑に手を振ってその場を後にしようとした。面倒ごとに関わりたくなかったからだ。
……だが、女は俺のコートの裾を掴んで離さない。
「なにか用か?」
女は餌を欲する金魚のように口を動かすだけで、音を発さなかった。もしかしてどこか故障でもしているのだろうか。
「悪いけどよぉ、個人が勝手にアンドロイドを……」
俺は彼女を説得しようと試みるが、女は必死になにか訴えかけるように、口を動かす行為を止めようとはしなかった。
パトカーのサイレン音が段々と近づいてくる。
俺は自分が行なってしまった暴力行為を振り返るだけの理性を取り戻したようだったので、彼女の手を掴むと駆け出した。この場にいると警察に捕まってしまうから、やむなくアンドロイドの手を取っただけで、それ以上の理由はない。はずだった。
でも俺は、彼女の眼球に記されたナンバーの下3桁「821」をもじって、彼女のことをハニーと呼ぶ。
ハニーは喋れないまでも俺の言葉は通じるようで、コーヒーを入れたり、ご飯を作ってくれた。目を細め、時折笑顔を向けてくれるハニーを見て、アンドロイドに恋心を抱くなんて馬鹿馬鹿しいと思われそうだが、確実に俺はハニーのことが好きになった。
ーーそしてなにより俺は、ハニーになら性行為を求められないという、安堵の気持ちで一杯だったんだ。
だが、そんな幸せな日々は長く続かない。
ある日自宅に警察と、白衣を身に纏った研究員が訪れると、アンドロイドの個人的所持について問い質される。なんでもハニーは、研究開発中の新型アンドロイドのようで、実験最中に逃げ出してしまったとのことだった。
それを俺が無断で連れ帰ってしまったーー。
「罪は償うさ。だけどハニー......いや彼女は俺に、一体なにを伝えようとしてたんだ? 」
ハニーは出会ってから今までも、度々俺の腕を掴んで声にならない言葉で訴えかけてきたんだ。
警察と研究員は顔を見合わせると、眉間に皺を寄せた。
「声帯スピーカーに異常があるようです。これを使いましょうか」
研究員は小型のスピーカーを取り出してコードを伸ばすと、ハニーの背中のジャックに端子を挿し込んだ。
「今日はどんなプレイにしましょうか。お好みはございますか?」
ハニーは俺の瞳を見つめ、初めて声を発した。
「え、プレイって......。どういう意味だよ、これ」
「こちらのアンドロイドは男性の“性欲処理”のために研究を進めていたものでして......」
突然俺の足に、力が入らなくなった。天地がひっくり返るような眩暈に襲われる。
俺の愛してたハニーが“性”に生きるアンドロイドだっただと?
ーーハニーが悪いわけでは決してないのに、俺には途端に彼女が“あばずれ女”にしか見えなくなって。
やるせない怒りの輪郭が、炎によって急激に縁取られていった。