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みやさん

写真と物語の融合、写真物語家を夢見ています。 マイペースで更新中。Twitter➪@miya_ayim

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ランチタイムメヌエット

17/12/18 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 みや 閲覧数:234

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”本日の昼食・豚の生姜焼き定食 脂が濃い”

今日も息子と息子と同棲している恋人の為に作ったお弁当のおかずの残りを食べながらテレビのお昼のワイドショーをぼんやり眺めていると夫からメールの着信があった。また脂濃いものばかり食べている…私は既読はするが返信は打たない。最近夫は毎日の食事の内容を別居している私にメールで知らせて来る。ワイドショーでは芸能人の不倫が話題になっていた。

一カ月程前に発覚した私の夫の浮気はきっと初めての事では無いはずだ。結婚して約三十年、怪しいと思った事は何回かあった。(私が気付いている事を夫が気付いていたかは別として)けれど確固たる証拠が無かったので私は過去の疑惑には目を瞑っていた。しかし今回は確固たる証拠があった。夫のスーツのポケットに入っていたキラキラネームの何と読むのかも分からないキャバクラ嬢の名刺を見つけ疑惑が確信に変わった時、私の怒りは頂点に達し、浮気を責める私に向かって夫はこう言った。

「おいおい、ちょっとした息抜きだよ」

それなら365日料理、洗濯、掃除、息抜きする暇も無い妻の私も息抜きしても良いですよね?
ドラマや映画なら夫の不倫に嘆き哀しむ主人公を慰めてくれる人がいるけれど、リアルな五十歳を過ぎたおばさんの私には、若い情熱的な素敵な相手がいるはずも無く…私は自分の職場近くで一人暮らしをしている息子の所へ泣きついた。
のだが…息子は私と夫には内緒で可愛い恋人と同棲をしていた。息子の同棲が発覚した事もショックだったが、私にとっては夫の浮気が発覚した事の方が圧倒的にショックだったので、息子は内心ホッとしている様だった。

「母さん、気にせずに暫くここに居ると良いよ」
「でも…」
「彼女も仕事しているから、料理とか洗濯とかして貰えたら助かるし」

私は”御三どん”という宿命から逃れられないのかもしれない。他に行くあての無い私にはこの現実を受け止めるしか道は無かった。息子の彼女も素直で明るい女性で、私が同居する事をとても喜んでくれた。仕事もせずに家事に明け暮れていた私には一人暮らしの選択肢も勿論無いのだから。

「母さんの料理、久しぶりだから楽しみだな。お弁当も宜しく」
「課長いつも美味しそうなお弁当を食べているので、私もとても楽しみです」
「課長って…あなた、私の夫の事を知ってるの?」
「…はい」
「実は彼女、父さんと同じ会社に勤めてるんだ。僕達も付き合いだしてから知ってびっくりしたよ。部署は違うから父さんはまだ気付いてないけど」

青天の霹靂だった。これを知ったら夫はどんな顔をするだろう…私は何だか楽しくなってきた。それから息子と息子の恋人と私の同居生活が始まった。夫からは話しがしたいと何度も連絡があったが私は無視を決め込んでいた。そんな私に夫は毎日の食事の内容をメールで知らせてくる様になった。栄養バランスの悪い食事の内容を私に心配して欲しいのだろうか?何だか無性に腹が立つ。
「父さん、母さんが居なくなって、きっと困っているだろうな。特に食事とか」
「困れば良いのよ」
「課長いつもお母さんの手作りのお弁当を食べていたのに、今は侘しく社員食堂で定食を食べてますよ…課長、私が食べているお弁当を見たらお母さんが作ってるって気が付くかな?」

息子の恋人の遊び心でそれは始まった。お昼に自分の側で職場の女性が食べているお弁当が自分の妻が作ったものだと夫が気が付くかどうか…
息子の恋人は一週間程前から毎日夫の近くの席でお弁当を広げていたが、夫が気が付く気配は一向に無かった。当たり前かもしれない。男という生き物は人が食べているお弁当になど興味が無いはずだ。お昼のワイドショーに興味が無い様に。私がまたぼんやりとワイドショーを眺めていると息子の恋人からメールの着信があった。

”お母さん、今日は課長の前の席でお弁当を食べました。すごく緊張しました…課長、お弁当を見て自分で作ってるの?と感心していましたよ。母が作ってくれていますと言ったらお母さんに感謝しなくちゃねと言っていました。もしかしたら…気付いたかも?一口いかがですか?と勧めてみましたが、警戒されてしまいました(笑)明日は一口でも食べて貰える様に頑張ります!”

夫は私には感謝の言葉の一つだって言ってくれた事が無いし、見ただけで私が作ったお弁当だと気付く程繊細な人間だとは到底思えない。けれど、一口でも食べて貰えたら…食べて貰えたら夫は私が作ったお弁当だと気付くだろうか?
明日は夫の好物を総動員させよう。鰆の西京焼き、だし巻き玉子、里芋と蓮根の煮物…これを何とか食べて貰えたら…食べて貰えてそして気付いて貰えたら…それだけでもう私の三十年間は報われる気がする。


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