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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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家族ごっこ

17/12/18 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:1件 そらの珊瑚 閲覧数:91

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 十八歳の異母妹は初めて会った瞬間、私を「アイコ!」と呼びハグした。私は十才も年下の女の子の両腕の力強さに圧倒された。すらりとした鼻筋、青い大きな瞳。私と何一つ似ていない。『こりゃ絵に描いたようなアメリカ人だな』と心の中で毒づきながらも不思議に嫌ではなかった。それどころか心の中にあったモヤモヤとした塊が、彼女の体温で溶けていくような感覚すらあった。
「ハジメマシテ。サラ、デス」片言ながらサラは日本語を話した。母親に教えてもらったのだろう。――まだ小学校三年生だった私を捨てた母に。
 両親は十九年前離婚した。「ママはアメリカで暮らすことになった」とだけ父から告げられた。通訳として働いていた母はそれまでも海外出張で留守がちだったので、いつか帰ってくるのだと呑気に私は思っていた。以来私は父に育てられた。真相を知ったのは父の母、私の祖母の葬儀の時。私は大学を卒業し社会人一年目だった。叔母達が話していたのを聞いてしまったのだ。母はアメリカ人と不倫し、その男の子を妊娠し離婚したのだ、と。真相を知り母を憎んでグレるほど私はもう子供ではなかった。母が恋しい季節はとうに過ぎていて『いつか帰ってくる母』が『永遠に帰ってこない母』に薄く上書きされただけ。その頃私は妻子ある男と恋愛中で「妻と別れてキミと一緒になる」という彼の言葉を信じ結婚する日を夢見ていたが、それは誰かを不幸にする事だと骨の髄で悟った。――母のようにはなるまい。私は恋の火を自ら消した。
 離婚して二十年近く経って父に連絡してきた母をどうかと思う。「娘のサラが夏休みに日本へ行きたいっていうから面倒みてほしい」という母の申し出を承諾した父もどうかと思うが。母は新しい家族三人で幸せに暮らしているのだと思っていたが、数年前に離婚したらしいと父が言った。
「そうなんだ。ざまあみろって思った?」
「ちょっとはね」
 父は笑った。知ってる。マシュマロみたいにふくよかな父の顔には、ざまあみろという気持ちなんか微塵も浮かんでない事を。
「ちょっと、か。大体パパは優し過ぎるよ。アメリカまで聞こえるくらいの大声で、ざまあみろーって叫んでやりなよ。パパにはそれだけの理由があるんじゃん。ママのせいで離婚して苦労したんだから」
「ハハ。寝取られ男って陰で呼ばれて傷ついた事もあったっけなあ。でももう時効だよ。それに苦労はしたかもしれないけど不幸なんて思った事はないよ。むしろ今はママに感謝したいくらいだ。おまえを産んでくれてありがとうってな」
「はぁ?パパってチョーお人よしだね」
「ありがとう」
「いや、褒めてないって」
 私は呆れてみせた。無理やり消した火は、長い間、心に黒い痕となって残ってしまったらしい。そのせいか、あれから恋愛をしたことはない。でもいつかパパみたいな優しい人を好きになって、お天道様の下を堂々と歩いてみせるよ。
 そんないきさつで、我が家に二週間サラが滞在する事になる。彼女に「アキラ」と名前で呼ばれるたび父は照れて少し赤くなった。翌朝、私が父と自分用の弁当を作っていると、サラが起きてきて「ワオ、ベントー!」と叫んだ。卵焼きとウインナーと焼しゃけ。いたって普通のおかずだったが、サラは弁当というものにあこがれに似た気持ちを抱いていたらしい。元々彼女は日本のアニメの大ファンで、学生が教室で弁当を広げるシーンを見て、いいなあと思ったのだと言った。
「アメリカ、ベントーナイネ。カフェテリア デ ランチ タベルカラ」
 私の作った弁当を見て「ファンタスティック!」と言ってうっとりしている。気を良くした私は、サラにも弁当を作ってあげようと思い立つ。ご飯も食材も多めにあるので何とか出来そう。食器棚の奥を探したらポケモンの絵が描かれた古い弁当箱が出てきた。かつて母はどんな気持ちでこの弁当箱に私のごはんを詰めたのだろう。
「ポケモン、カワイイ!アイコ ノ デスカ?」
「そうよ。私が幼稚園の時のもの。良かったらサラにプレゼントするわ」
「ウレシイ! サンキュー、アイコ」
 ちまちまとごはんとおかずを詰め込み蓋をし、箸と一緒にバンダナで包む。サラは箸を使えるんだろうか? もし使えなかったら……困った顔のサラが浮び、私はほくそ笑む。かつてサラに母を盗られた私にはこのくらいの意地悪、許されるわ。箸は刺しても使えるしね。そんな私の企みなど知る由もなく、サラは手渡した弁当を自分のリュックに入れた。私は会社の休みを取って東京を案内しようかとも思ったが、サラはiPhoneがあれば一人で大丈夫だと言う。
「ベントー ワ オダイバ ノ ウミ ミナガラ タベルヨ」
 今日妹は、ゆりかもめに乗りコミックマーケットが開かれる東京ビックサイトへ行く予定らしい。
 私と父はそれぞれの会社で同じ弁当を食べるだろう。
 ほんとの家族みたいに。



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このストーリーに関するコメント

17/12/18 そらの珊瑚

一行目 異母妹は異父妹の間違いでした。
申し訳ありませんでした。

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