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水谷暁さん

おじさんです。

性別 男性
将来の夢 小説で小遣いを稼ぐこと
座右の銘 塞翁が馬

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拝啓、俺です。

17/12/17 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 水谷暁 閲覧数:86

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 建築現場は十二時のサイレンで昼休みに入ります。コンクリートを打ってるときは途中で止めちゃいけないらしいですが、俺が配属されたときには棟上げまで終わっていて、しばらくコンクリート工事はありません。
 先生、棟上げ、知ってますか? 家の骨組みができた段階です。お祝いするそうです。今は壁やら窓やらを組み立てる工事の手伝いをやっていて、家が完成したときのお祝いには参加できると思うので、楽しみにしています。
 俺、まじめに働いてるんで、昼には腹と背中がくっつきそうになっていて、近くのコンビニに走りたいんですけど我慢してます。先生が、初めが肝心って言ってたから。仕事そっちのけで、がっついてる奴って思われるのもまずいと考えて。
 俺もまだ十六で人生長いし。変なレッテル貼られないよう気をつけなきゃいけません。俺、最近、考えることがすごく大人になって来た気がします(笑)。
 職場に安西さん(三〇歳ぐらい)と、後藤さん(六〇歳超えてる)という人がいます。
 安西さんは俺のすぐ上の上司です。大工仕事をいろいろと教えてくれます。
 後藤さんは、見た目、しなびた感じなんですが、腕のいいベテラン大工だそうです。しばらく別の現場に行っていて、つい最近、いっしょに働くようになりました。
 ごっさん(みんな後藤さんをそう呼びます)は、いつもにこにこしています。安西さんが初対面の俺を紹介してくれたときから、笑みを絶やさず、誰の話にも耳を傾けるんです。
 昼にはみんなで、コンビニに昼飯を買いに行きます。安西さんは食いしん坊で、弁当のほかに、唐揚げやコロッケなんかの揚げ物を買うのが定番なんですけど、ごっさんが戻って来た日は売り切れで、弁当一個で我慢してました。
 ごっさんは便箋だけを買ったんです。
「ごっさん、弁当買わないの。腹すかない? また、どっか悪いの?」
 ごっさんは奥さんを三年前に亡くして、ひとり暮らしだそうです。安西さんが不思議がっても、ごっさんはにこにこしているだけでした。
 コンビニから帰ると材木に腰掛けて弁当をひろげます。よく言えば毎日ピクニック気分ですが、適当な小屋もないんで、外で食べるしかないんです。
 みんなが弁当を食べ始めたら、ごっさんはずた袋から保温機能付きの弁当箱を出したんです。
「弁当持参だったんだ」
 みんな驚きました。今まではコンビニ仲間だったんでしょう。
 ふたを開けたら、卵焼き、鶏唐揚げ、ミニトマトなんかが彩りよく盛りつけてあって、味噌汁までついてました。豪華弁当≠、みながうらやましがりました。
「ごっさん、その年でいい女(ひと)でもできたの」
 安西さんが軽口をたたくと、ごっさんは安西さんの耳元に口を寄せました。漏れてくる声はかなりかすれていました。
「えーっ、愛子ちゃん、帰ってきたの」
 安西さんがすっとんきょうな声を上げました。
「十年ぶり? 音信不通だったのに。独身?」
 ごっさんは大きくうなずきました。
「独身?! 女優、目指して家を飛び出したんだよね。悪い虫、付いてないかな」
 それから安西さんは、ごっさんの娘さんの愛子さんの近況について、質問攻めにしました。ごっさんは食べながら、うなずいたり、首を振ったりして、相手をしました。途中で、ごっさんがおかずの鶏唐揚げを安西さんにわけてあげたんですが、一口食べてすっかり感動していました。
「女優よりも料理が向いてるよ。料理の先生、それか、嫁入りだな」
 ごっさんは満面の笑みを浮かべていました。
 ごっさんは食べ終わった弁当箱を水道で洗うと、便箋に何か書き始めました。
「ラブレター?」
 安西さんが茶々を入れましたが、ごっさんはくそまじめな表情を崩しません。
「『べんとう、うまかった。ありがとう。』」
 安西さんがごっさんの手紙を読み上げました。ごっさんは照れ笑いを浮かべて、便箋を小さく折りたたむと、弁当箱に入れました。
「ごっさん、粋なことするじゃんか。よーし、俺も手紙書くぞ。便箋一枚くれよ」
安西です。愛子ちゃん、おかえり。今度、お邪魔します。
 そこまで書いて俺の顔を見ると、
新入りがいます。厚かましいお願いですが、歓迎会の料理をお願いします。よろしく。
「えーっ、俺っすか……」
「愛子ちゃん、すっげえ美人なんだそ。会う価値、大ありだって」
 安西さんも便箋を小さくたたんで、ごっさんの弁当箱に入れました。
 俺はダシ≠ノ使われました。

 二人をまねて俺も先生に手紙を書きます。元気でやってます。ようすを見に来てくれるとうれしいです。先生も演劇やってたと言ってましたよね。愛子さんと話が合うかもしれません。
 では、これで鉛筆を置きます。
児童養護施設 若草園 小川奈々子先生へ

追伸 書き忘れましたが、ごっさんは喉頭ガンで声が出なくなったんだそうです。


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