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本宮晃樹さん

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弁当を増やせ!

17/12/17 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:293

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「われわれはいま、由々しき問題に直面している!」
 船長が予告もなく怒鳴ったので、救命ボートは大揺れに揺れた。
「あたしゃ世の理を悟ったような気がするね」航海士が嘆く。「タンカーを乗っ取ればそりゃ、売り切れないほどの原油は手に入りまさ。それにしたって乗船してる人間をこんなカヌー以下の泥船に乗せて!」苛立たしげに救命ボートを叩く。「海に放り出すってのは、いったいどういう了見なんだろうね」
「ま、海賊ってのはおしなべてそういうもんでしょうよ」荷役係はあくまでシニカルだ。「甘んじて鮫の餌になる。それもまた人生でしょうね」
「そうなりたければそうなるがいい。言っとくがわしはごめんだ」
 船長の腹の虫が盛大に鳴った。共鳴するかのように航海士と荷役係のそれも同調する。腹の虫のアンサンブル。
「つまりそういうことだ、われわれの抱えている問題というのはな」
 航海士は猜疑心もあらわに、「残りの食料はどんなあんばいなんです、船長」
「これだけだ」どこに隠し持っていたのやら、魔法みたいに弁当箱が現出した。「先に断っとくが、掛け値なしにこれだけだぞ。身体検査してくれたってかまわん。なんなら脱ぐが?」
 二人とも毛むくじゃらの裸体なんぞを拝みたくなかったので、身体検査は免除された。
「中身は」実は鮫の餌になんかなるつもりはさらさらない荷役係が、ごくりと喉を鳴らした。「献立を教えてください」
「ライス三百グラム、卵焼き三個、レタス三枚、鳥の唐揚げ三個、ソーセージ三本。そら、これが証拠だ」
 最重要物資は仔細に検分され、船長の発言の裏が取られた。
「さて諸君。物語の都合上これから起こることは全部わかっている。われわれは付近を航行するマースク・ラインのコンテナ船に発見され、救出される予定だ。ちなみにどえらい料金を請求されて、その支払いをめぐって同社と泥沼の争いが待ってる。まあそれは置いといて、マースク船に拾ってもらうまで六日も開きがあり、わしらの腹はそれぞれ三日しかもたん。ちなみに弁当を全部食べればきっかり六日持つことになっとる、物語の都合上な。さあどう乗り切るか考えてくれ」
「おあつらえ向きに内訳が三つずつあるようですけど、三分の一だけ食べてもだめなんですよね」
「三分の一なら一日ぶんの延命になる。むろん物語の都合上だが」
「答えは出ましたな。誰かが全部いただいて、残りの二人は餓死する。それしかねえやな」
「さっき鮫の餌がどうとか言ってたご仁がいたはずだが?」
「ちょっとかっこつけてみたかっただけです、勘弁してください」
 船長はブルドックみたいにうなった。「航海士、お前は進んで犠牲になろうという崇高な志を持ってるように見えるぞ」
「もしそう見えるなら、あんたの目は白内障でしょうな」
 場が凍りついた。誰も譲る気のないことが明らかになったのだ。
「正攻法じゃ無理だ。ここは思考実験でいきましょう」と荷役係。「弁当をxとする。対する人間はy。式にすればx=yですね。これに値を代入すればx=1^3となりますが、このままじゃxは1のままでなんにもならない。ところが両辺に3をかければ3x=3×1^3になるんですよ!」
「でかした、弁当が労せずして三つになったぞ。案外楽勝だったな、え?」
「盛り上がってるところ悪いが、その3とやらはどこから持ってくるのかね」陰鬱そうに航海士が指摘した。
「E=mc^2だ!」船長はやぶれかぶれに、「質量とエネルギーは等価だというじゃないか。エネルギーを物質に転換すれば弁当の二つや三つ、わけないはずだぞ」
「なるほど、さすが船長だ」この水際立った提案にはさしもの航海士をもうならせた。「エネルギーならそこらにあふれてる。波力に風力、太陽光。なんでもござれだ」
「一日の日射量だけで世界の電力需要一年分を満たせるって聞いたことありますよ」荷役係は飛び上がって手を叩いた。「参ったぞ、生成される弁当は無限に近いんじゃないかな」
「よし、方針は固まったようだな。両辺を三倍してから、E=mc^2。中学一年生の宿題だ、こんなもの」船長は呵呵大笑した。
「いま思いついたんだがね」航海士は笑いをこらえきれないようす。「日数を負の値にしたらいいんだ。両辺にマイナス1をかける。するとあたしらの腹持ちはマイナス3だからむしろ満たされ、発見されるまでの日数はマイナス6日だから、もうそろそろマースク船がお出ましになるんじゃないかね?」
「念のためそっちも試すか。無限個の弁当だけで不安ならの話だがね」船長はすっかりリラックスしている。
 荷役係は伸びをして、すべて片づいたと言いたげにあくびをひとつ。「さあ、あとは弁当式を三倍して、エネルギーを物質に転換する方法を見つけ、マイナス1を日数にかけるだけですね。ぼくはどうやってやるのか知らないけど」


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