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大久保 舞さん

無名のフリーライターをやっていますが、小説家になるために本格的に活動してみることにしました。 ショートショートは読むのも書くのも大好きです。 普段はカクヨムメインで活動中。 https://kakuyomu.jp/users/mai_ookubo アイコンは大好きな漫画家の巳年キリンさんに描いて頂きました。

性別 女性
将来の夢 ショートショート作家
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白い杖

17/12/16 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:0件 大久保 舞 閲覧数:111

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とある中小企業にて、毎日のように怒鳴られている青年がいた。

その青年は大学生。遊ぶための金を得るために、その会社へ派遣のアルバイトに来ていたのだった。



青年は特別ミスが多いというわけではないのだが、仕事に対する真剣さが足りないことが伝わるのか、ベテラン社員の一人が、厳しく接してくるのだった。

『ウザってぇ・・・』

青年はそう思いながらも、仕事の時給が良いので、どうせ学生の間だけだからと、辞めずになんとなく働き続けていた。



青年が働くようになってからしばらくして、その社員の様子がおかしくなった。

誰から見ても、もたもたした動きで、今までとは明らかに違う様子だった。

青年は不思議に思い、少し観察してみると、どうやらその社員の目が悪くなってしまっているようだ、ということに気がついた。



それを知った青年はおもわず「コイツ、目が見えねぇでやんの!!」と叫んだ。

それは、普段の憂さ晴らしでもあったし、咄嗟に出た暴言でもあった。



その社員は、それを黙って聞き、その場を去っていった。

しまった、とも思ったが、今まで向こうに言われてきた厳しい言葉を考えればと、青年は勝手に自分の行動を肯定した。



青年は、大学を卒業して、会社の派遣から正社員になることが出来た。

特別にやりたいこともなかった青年にとっては、このご時世に、ありがたい話でもあった。

例の厳しい社員は、いつの間にか会社を辞めてしまっていた。



それから更に数年の月日が流れ、青年は、すっかりちゃんとした社会人になっていた。

いつも通りの通勤途中、白い杖をついた老人が、道端で数人の少年たちにからまれていた。

どうも、老人がゆっくりと歩く度に、少年たちが、老人の白い杖を蹴り飛ばしているようだった。



青年、いや、もう立派な社会人になった彼は、少年たちを注意しようとした。

だが、ひるんでしまって、その光景をひっそりと見守ることしか出来なかった。



「大丈夫ですか」少年たちがいなくなった後、彼は、老人に後ろから声をかけた。

「ええ、良くあることですから、大丈夫です・・・」そう言って振り向いたのは、あの厳しい社員だった。

仕事に燃えていた彼の面影はなく、酷く老けて、みずぼらしい格好をしていた。

彼は、驚きのあまり声が出なかった。



「あなたはとても優しい人ですね。声を聞くだけで分かります。本当に、ありがとう」

そう言って、かつて彼の上司だった老人は去っていった。



彼は、なぜか自分の頬をつたう涙を、止めることができなかった。


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