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アキクニさん

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窓は開かれて

17/12/16 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:0件 アキクニ 閲覧数:343

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彼は愚かであるゆえに愉快な男である。
窓というもので人は何を思うのであろうか。ときに窓は開かれたもの、未知のもの、そして盲点の窓という存在があるという論説を思い出した。彼の窓に関してはそのどれにも当てはまらないようである。

「窓は大きいほうがいいですね」
彼は言った。折れそうな体躯が病的であった。彼は弱々しくそれが故に見る者の顔を歪ませた。
嗜虐心よりも先に、憐憫が浮かぶのだ。哀れな人であると。そしてこの世の悲惨さを垣間見させるのだ。
精神的にも肉体的にも彼は弱者であった。
「そうですね」
家を作るという話なのにどこか哀愁を感じるのである。彼のための新しい家を作るというのに、家の話をするたびに彼自身の墓場が完成するように思えた。まだ途中である家のむき出しのコンクリートは、冷え冷えとして私たちを囲んでいる。
よくも、こんな山奥の廃墟を改築して住むなんて思うものだ。
「窓が大きければいいです」
「あまり大きいと朝日で目が焼かれますよ、暑くて電気代もかかりますし」
彼はこまったように微笑んだ。なぜ、眉を下げるのかわからない。機嫌を損ねてしまったのかもしれないが、気にはしなかった。

そして、家は完成した。山奥の家は、そこそこに改築され、朝日を存分に浴びるように大きな窓をつけられた。
カーテンなどなかった。煌々と山奥で灯りが浮かび上がる。木々はざわめき、そこだけが祭壇のようだった。

家が完成してから、数ヵ月後に私は彼のもとを訪れた。
山の木々はオレンジに色づいており、明るいろうそくに囲まれているようだ。二階の巨大な窓のほうへと足を進める。階段をのぼって山の景色が広がった。
太陽の光が目をつんざくようだ。これは光の暴力でしかない。この空間にいるのすら辛い。手をかざしながら彼に近寄った。
「まぶしくないのか」
「君が言ったとおりだったよ。焼け焦げてしまった」

彼は、下を向いた。彼が悩んでいるのは知っていた。何に悩んでいるのかはわからなかったが。窓を大きくすることには意味があったらしい。

「窓を大きくすれば世界が広がると思った。光を浴びれば、楽しくなると思った」
「…ガラス越しなんだ、所詮。おまえは、風も感じずに守られているだろうよ。だけど、浴びているだけで触ってなどいない。風の音も偽物なんだ。この家はお前自身なんだ」
「窓を作ったんだ、だから…俺は変われると思ったよ」
私は、微笑んだ。
「この窓は開かない仕様だろ?」
その時の彼の顔は、忘れられない。目には絶望が浮かんでいたのか、それとも衝撃なのか。
私は衝撃であればいいと願う。
また、次のとき彼のもとに行くと、窓ガラスが取り払われていた。彼は、はにかんで言った。
「取り払ってみたんだ、これなら少しはいいだろう?」
後日、台風で家が壊れたと彼から電話があった。
まったく不器用な男である。


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