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瀧上ルーシーさん

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性別 男性
将来の夢 プロ作家になること。
座右の銘 犬も歩けば棒に当たる。

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ハイキング

17/12/14 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:4件 瀧上ルーシー 閲覧数:227

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 朝、スマートフォンのアラームで目を覚ました。昨日、臨時の飲み会に参加したため、記憶がはっきりしない。スマホ片手に俺はしばらくぼうっとした。
 思い出す。今日は好きな女と二人きりでデートをする約束をしていたのだ。幸い乗る電車の時刻もすぐに思い出せた。俺は歯を磨き、髪をセットすると、勝負Tシャツにジーンズを穿いて家を飛び出した。
 ターミナル駅で合流する。彼女はキャップに長ズボンに薄い黄色の長袖シャツという、あまり女らしくない格好をしていた。彼女は大学でもあまり着飾らない。挨拶もそこそこに俺は言われてしまった。
「今から山登るんだよ? なんで半袖なの。直射日光を浴びることになるし、蚊に刺されるし……」
 郊外へと向かう電車の中で彼女はリュックサックからスプレーを取り出すと俺の腕に噴射した。独特な臭いがする。虫除けスプレーらしかった。
「ありがとう」
「帽子も被ってないし暑いと思うよ。今日は違う場所にする?」
「いやいやいやいや、大丈夫だから!」
 電車に揺られること一時間とバスに揺られること数十分ほどで、目当ての場所に到着した。二人で山に登るのだ。昨日の飲み会のことは殆ど覚えていないが、それより前にネットで調べたので知っている。二時間も歩けば山頂に着くらしい。帰りはロープウェイで麓まで下ってくることができる。
 彼女は俺の方なんて見ずに、さっさと歩いて行ってしまった。だが彼女の身長と俺の身長差はどう少なく見積もっても二十センチはあった。ゆっくりと彼女に合わせて歩く。緩やかな斜面の道はまだ舗装されている。途中から舗装されていない道に入るらしい。
「手を繋いでもいいんだよ」
 は? 俺は何を言っているんだ?
「遠慮しておくよ」
 彼女は悠然と頬笑んで拒否するのだった。俺のキモい発言も気にしていないようだった。
 言葉数も少なく、山を登っていく。コンビニで買った飲み物はとっくに空だ。直射日光を浴びて汗を掻いて俺の頭は整髪料と混ざってべたべたになっていた。
 歩いている内に、俺は催してしまった。だが丁度いいことにトイレがあった。俺は彼女に断って男女別々のトイレの個室に入った。
 した後で気づいた。トイレに紙がない。だが俺はいつもティッシュをポケットに入れている。ある……あるはずだ、あるに決まっている、あってくれ! ポケットの中をまさぐるとハンカチと一緒にティッシュが入っていた。
 手を洗ってトイレから出ると、俺と彼女は更に歩を進めた。すぐに舗装された道は終わって、途中吊り橋なんかもあって、正直怖かったが俺はかっこ悪い所を見せずに山を登った。
 二時間以上かけて到着した。綺麗に整えられた場所にここが山頂だと書かれた木の看板が立っている。
「ヤッホー!」
 頬笑んで彼女は叫んだ。俺も同じように叫ぶ。頂きから見える麓の街と遠くの繁華街はとても綺麗に見えた。
 山頂には食堂やお土産物を買う売店もあって、俺達は食堂で軽い食事を取った。
「払うよ」
「ありがとう」
 そしてレジでサイフを開く。電車代もコンビニで飲み物を買った時もモバイルSuicaで払ったし、俺は現金をきちんと持ってきていただろうか……覚悟を決めてサイフを開くと、そこには紙幣が数枚入っていた。胸をなで下ろす。
 それから俺達は二人で近くのベンチに座りお喋りで時間を潰し、ロープウェイがやってくるとそれで下山した。
 まだデートは終わらない。俺は今日、彼女に付き合って下さいと告白するのだ。戦略も一応立ててある。
 今日登った山に背中を向けてバスで最寄りの駅まで行くと、俺はまたトイレに入った。そこで用を済まし手を洗って拭くと、スマホを少しの時間操作した。
 帰りの電車に乗り込むと台本でもあるかのように一人分だけ席が空いていた。当然彼女を座らせて俺は前に立って吊革を握る。
 しばらく無言で電車に乗る。彼女のスマホが着信した。時間がくるとメールが送信されるように俺がセットしたのだ。
「……メール見ないの?」
「うん、人と一緒にいるときだからね」
「見て、いいよ」
「ううん、いい」
「……俺からのメールなんだ」
「ふうん、そんなことだと思った」
 彼女は俺の目の前でメールを確認する。そこには『好きです、付き合ってください』と書かれているのだ。
 彼女が俺の顔を見る……その目は別にうるんでいなかった。
「今日、君、最初から最後まで鼻毛出てたんだよ、知ってた? わたし背が低いし君は高いから、風に揺れる鼻毛がよく見えて……鼻毛が出ている男に告白されるだなんて悪夢であって屈辱だよ、また今度告白してよ」
 朝、きちんと鏡を見てこなかった俺のミスだ。どうせ乱れる髪のセットなんかより、それは最低限の身だしなみだった。
 でも完全に告白を断られたわけではないのが救いだ。
 言われた通りまた今度告白しよう。


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このストーリーに関するコメント

17/12/14 大和柚希

物凄い悲劇ですね…
けれども、救いのある悲劇で良かったです!

17/12/14 瀧上ルーシー

大和柚希さん、感想ありがとうございます!
そう言われると嬉しいです!
個人的には悲劇の中の希望とかハッピーエンドなんだけどわだかまりが残るようなラストが好きです。

17/12/17 文月めぐ

『ハイキング』拝読いたしました。
デートの前に身だしなみを整えるのは最低限のマナーですよね。
今回は悲劇で終わってしまいましたが、「俺」の告白が成功することを祈るばかりです。

17/12/17 瀧上ルーシー

文月めぐさん、感想ありがとうございますm(_ _)m
ええ、うっかりミスで許してくれる人もいるとは思いますが、風に揺れていたらアウトですよね(笑)
今後の「俺」に十分勝算はあると思います。

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