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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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緑の血

17/12/11 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:529

時空モノガタリからの選評

劇的な展開なのにどこかさわやかなラブストーリーとなっていて、読後感が良かったです。また「緑の血」という設定が良いと思います。これは傍目からは見えづらい主人公のコンプレックスをうまく表象していて、また主人公の僕と同様に生まれながらのハンデを抱えながらも皆から受け入れられているサナエとの対比によって、どこか屈折した主人公の性格が際立って感じられました。そして共通点と違いを抱えつつも似た二人が互いに支えあう姿が魅力的でした。自分を本当に受け入れてくれる者が一人でもいれば、人は強くなれるのかもしれませんね。

時空モノガタリK

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 ◇
 些細なことで僕に緑の血が流れていると知られて、友達を全員失った。小学一年生の時だ。
 
 ただ時間が経つにつれ、血のことなんてみんな気にも留めなくなるけど、僕をボッチにする図式自体は変わらないまま続く。

 ーーもし心が可視化されたのなら、萎んだ風船みたいな形になってるんだろうけど、誰もそれに気づくはずもないので、僕は高校でも孤独の道を悲しく歩んでいる。

 そんななか、僕は同じクラスの野々原サナエさんを、不謹慎ながら羨ましく感じてしまう。
 彼女は足が不自由で、いつも車椅子に乗っていて、だけど彼女のペースに合わせてくれる友達がいる。
 
 どうしてサナエさんは他人と違うハンデを抱えてるのに、みんなから愛されてるの?
 僕なんか、普段は目にすることのない“血の色”なんかのせいでハブられてるのに、これって不公平じゃないかって疑問を抱くけど、彼女はそんな僕にも優しい。

「エフくんってさ、休み時間音楽聴いてるけど、誰が好きなの?」
「サナエ、こんな奴に話しかけない方がいいよ」
 サナエさんの興味津々な疑問を遮るように周りが騒ぐけど、彼女はムッとした顔で正論をぶつけた。
「そんな言い方ないんじゃない? エフくんがなにしたっていうのさ」
 サナエさんの態度に気を悪くした友達がみんな離れていくのが見ていられないけど、彼女はそれでも笑ってる。
「この前貸してもらったCD、良かったよ〜」
 そこで僕は別の意味で、彼女のことを羨ましく感じるのだった。

 ……だから、誰も予期していなかった不測の事態が校内で起こった時、僕は彼女の為に無我夢中になれたんだ。

 ◇
 一部の生徒にキモいと馬鹿にされていた用務員のおじさんが、或る日突然狂ってしまう。

 彼の心はボコボコにされて歪な形になって、その感情は理性を通り越して手足に直接伝わって、家庭科室から包丁を持ち出すと、校内を怪獣みたいに闊歩し始める。

 彼のことを馬鹿にしていた生徒も馬鹿にしていなかった生徒も、グサグサ刺されたり切られてしまって、手がつけられない。

「みんな! 用務員のおじさんがおかしくなっちゃったらしくて。大変なんだって!!」
 生徒の一人が血相を変えてクラスに飛び込んでくるけど、みんなポカーンとした後、すぐ笑う。
「意味わかんないんだけど。クソオヤジがなに……」
 でも、そんな呑気な言葉を遮断するように、廊下から女子生徒の絶叫が聞こえてきて、クラスが刹那で静まり返る。次の瞬間には、我先にと教室からみんな逃げ出して、僕はサナエさんに目を向けると、彼女が車椅子に乗ろうとしている姿が映った。
「おんぶするよ。嫌じゃなければ」
「……ありがと」
 僕がサナエさんの腕を首にかけるタイミングで、ブツブツ呪詛のようなものが聞こえてきて、音の発生源に視線を向けると、ドアの付近に虚な目をした“当事者”が立っていた。

「サナエさん、待っててね」
 僕は彼女を床に下ろすと、背中にドップリと汗をかいている自分に気がついた。
「エフくん。駄目!」

 僕は自身を奮い立たせるために腹の底から声を絞り上げると、彼に向かって突進した。
 でも、彼の前蹴りを腹部に受けて、僕は机を倒しながら、サナエさんの方に吹き飛ばされてしまう。

 激痛に悶え苦しむ僕と彼女に、大きくて黒い影が重なった。
 僕は咄嗟に、サナエさんを抱きしめたんだ。

 ーー僕の背中から体内に、サクッと冷たいものが入り込んできた。一度でなく、二度、三度と。

「いやぁ! エフくん!!」
 途端に体から力が抜けていくけど、僕が死んでしまうということは同時に、サナエさんもこの後彼に殺されてしまうということだった。

 僕は持てる力を振り絞って、おじさんのズボンの裾を掴むと、思い切り引っ張り上げた。
 すると、運良く彼は態勢を崩し、机の角に頭を打ちつけ、派手な音を立てて倒れたんだ。

「エ、エフくん、今助けが来るからね!」
 僕は自分の体温が急激に下がっていくことに、死期を悟った。
「さ、最後に聞きたいんだ」
「最後なんて言わないでよ!!」
 視界が霞んで、サナエさんの顔がよく見えない。暗闇のなかで、僕は彼女に問う。
「ぼ、僕の血は、何色かな」
 もう一言二言しか話せないだろうに、どうしても僕は、こんなことが気になってしまうんだ。
「……そんなどうでもいいこと聞かないでよ! 助かるから!!」

 あぁ、良かった。僕は初めて、僕を差別しないでくれる人に出会えたんだ。
 
 彼女が無事でいてくれたことがなによりも嬉しくて、ただ心を形にする術は誰も持ち合わせていないので、僕は最後の想いを、言葉で伝えることにしたんだ。
「ありがとう」

 ーー僕が次に目を覚ました時、その時も僕になれたらいいななんて、彼女のおかげでそう思えたんだ。


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