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t-99さん

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‘x‘ ミー子 ∧――∧

17/12/10 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:0件 t-99 閲覧数:327

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 くびをかしげると眼下の生垣に無数のペットボトルが並べられていた。なんのおまじないだろう? 浮かんできた疑問を頭の隅に追いやり『クソネコ』とほうきを手にした怖いおばさんが出てくるまえに、わたしは車道にひょいと飛び降りた。
 優雅にしっぽを左右に揺らしながら、いつもの公園に足をむける。『ネコちゃん、ここではフンをしないでね』公園の砂場には看板が掲げられていた。当然、字の読めないわたしは用をたした。
 雲からひょっこり顔を出したお日様がひっきりなしに照りつけていた。太い幹から伸びた枝のおかげで踏み入れた砂はまだひんやり冷たかった。休むことを忘れたセミがさきほどからわれさきにと歌い続けていた。
 公園にユイの姿がなかった。普段ならこの時間、わたしを見つけて飛びついてくるはずだった。幼稚園が夏休みになってから毎日ユイと遊んでいた。まあ、遊んでいるといっても、一方的に捕まえようとするユイからわたしが優雅に逃げ回るだけだった。
 人と猫との鬼ごっこ。鬼はいつもユイで、逃げるのがわたしだった。ユイにふれられたことは一度としてなかった。それにしてもどうしたのだろう? こんな天気のいい日に現れないなんて、柄にもなく心配になってしまった。なにしろわたしを見つけて飛びついてくるのは幼いユイだけだった。
 黒猫のわたしはよく人から無視された。それでも長年生きていると黒猫に対する風あたりが変わってきた。ひとむかしまえなら『悪魔の使い』なんて気味が悪いと避けられていたが、宅配便のおかげだろうか、親しみを持つ人が増えてきた。町でわたしを模した可愛いイラスト付きの車を見かけるようにもなった。近頃ならカラスの方がよっぽど嫌われている気さえした。
 そんなことを考えていると、ようやくユイが公園に姿をみせた。普段なら元気にかけてきて勝手に鬼ごっこを始めてもいいはずなのに、足取りが重そうだった。
「ミー子」
 やっとわたしに気が付いたらしく、ユイが声を発した。いつもの明るさは感じられなかった。元気がないけどどうした? と喋るわけにもいかないので、黙ってユイの言葉を待つことにした。
「デメちゃんが死んだの。パパがね、お祭りでね、すくってくれた金魚。友達だったの」
 砂場に座りこんでいまにも泣きだしそうだった。
「大好きだったの……死んじゃった」
 とぎれ、とぎれ、話してくれた。見ていられなかった。そしてついには両手を顔に押しあててユイは下をむいてしまう。泣いているのだろうか。震えていた。わたしは心配になってユイのふところに歩み寄り、そっと見上げた。
「ミー子、捕まえた!」
 全身の毛という毛が逆立った。
 瞬間、からだが麻痺したように固まった。
 わけがわからなかった。
「捕まえた、捕まえた、ミー子を捕まえた」
 セミの鳴き声に混ざって、歓喜の歌が聴こえていた。気が付けばメリーゴーランドのように回転しながら、ジェットコースターなみの激しさで何度も上下運動をわたしは繰り返していた。ユイにがっちりからだを掴まれ、もはや逃げ出すことは不可能だった。
 目が回り、さんざん振り回され、さわられまくる。
「可愛いミー子、こうしてあげる」
 無限になでまわされ、気を失いかけたころ、不覚にも赤いリボンまでわたしは付けられてしまった。
「今日からユイの猫だからね」
 地上に手足をつくことさえ許されない。わたしは自由を奪われたままだった。
「ユイ、お昼ごはんよ」
 救世主がいきなり登場した。
 母親という存在のありがたさを感じていた。
「えー、まだ遊びたいよ」
 悪魔がニタリと笑っていた。
「ダメよ、いいかげんにしなさい。わがまま言うならお昼ごはんはなしよ」
 語尾を強め、天使のような母親が言い聞かせていた。
「ミー子とまだ遊びたいよ。ねえママ、この猫を飼ってもいい?」
「まあー、なんて可愛らしい猫なの。もちろんいいわよ。」
 天使がいきなり堕天使になる瞬間だった。
 ふたりの悪魔が悪巧みをしていた。
「ただし、予防摂取と避妊手術は必要ね。ごはんを食べたら動物病院にいきましょう」
 冗談じゃない、もしかして改造手術、いや殺される? 
 人間のペットにされる恐怖からからだが震えてくるのがわかった。
「ミー子、もう逃げられないね。そうだ、デメちゃんを家についたら紹介してあげるね」
 ユイが嬉しそうに声を張り上げる。
「ミー子ちゃん、私とも遊んでね」
 母親が負けないくらい大きな声で話しかけてきた。胸の鼓動がはやまり、大量の汗が全身から溢れてくる。けれどこれだけはどうしても言わなければならなかった。なぜならわたしはオス猫なのだから。
「にゃーーー」
 力いっぱい全身全霊を込めて叫んだ。
「可愛いーー」
 いつの間にかセミの鳴き声が消えた公園に悪魔の甲高い声がこだましていた。


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