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笹岡 拓也さん

文章で笹岡 拓也の世界を伝えられたらいいなと考えてます。 キャラクターたちがイキイキとした物語を書いて、読んだあと何か残れるような作品にしていきます。

性別 男性
将来の夢 自分の作品を多くの人に読んでもらうこと
座右の銘 生きているだけで幸せ

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美味しくない弁当屋

17/12/08 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:1件 笹岡 拓也 閲覧数:148

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私が働く弁当屋には毎日のように通い詰める若者がいる。彼はとても細く、顔も色白で覇気がない。
「あんたもたまにはしっかりした物食べなさいな」
私が彼に声をかけることもしばしばある。私が働く弁当屋には正直栄養バランスが整った弁当はない。どれも栄養が偏っていたり、油をたくさん使っていたりと健康志向ではないのだ。この弁当屋は健康志向よりも工場などで働くガテン系の方々に好まれる弁当を提供している。
だから私は彼に弁当屋にもかかわらず違う物を食べなと声をかける。
「いえ。また来ます」
彼はどうしてこの弁当屋の弁当を好んで食べるのか?私は不思議でならなかった。
彼が好む弁当を私の家族は好まなかった。旦那も娘も息子も。そして私も。
「今日弁当余ったから食べちゃって」
「えーまた?私いらなーい」
「そう言わないで。食べてちょうだい」
私が弁当屋で働くようになってから、余った弁当をよく持ち帰るようになった。本当は廃棄処分する物だが、どうしてももったいない精神が働き持って帰ってきてしまう。一応店長にも了承を得ているから構わないけど、家族からも嫌がられてしまっている。こんな弁当をどうして彼は毎日のように買いに来るのだろう。

次の日も彼はまたいつものように脂っこく栄養バランスが崩れた弁当を買いに来た。そんな彼にどうしても質問したかった私は
「ちょっと時間ある?」
と声を掛けてしまう。彼は戸惑うも時間はあるようで、ゆっくりと頷いてくれた。
こんなおばちゃんに話しかけられて嬉しい若者はいない。ただどうしても気になってしまい、自分の頭の中で解決するのは消化不良だったのだ。
「あんたさ、どうしていつもうちの弁当買うんだい?脂っこいし、栄養も偏ってるし」
近くのベンチに腰をかける。そして私は彼に質問をする。見ず知らずの若者だが、毎日買ってくれる大事なお客だ。だから彼には健康であってほしい。そんな思いからの質問だった。すると彼は何故か微笑みながら答えた。
「おばさんはどこか母ちゃんに似てます」
彼はそう答えると買ったばかりの弁当を開いて食べ始めた。彼はとてもとても美味しそうに食べる。
「僕の母ちゃんも以前あの弁当屋で働いてたんです。母子家庭だったので、残った弁当はその日の晩飯、次の日の朝飯になってました。正直、当時は好きじゃなかったんだよなぁ」
口の中にまだ入っているのに彼は語り続けては昔を懐かしむように箸を運ぶ。
「でも五年前に母ちゃん死んじゃって。その日から僕は祖父の家で育ったんですよ。そして今になって、自分の金で弁当を買えるようになって。やっぱりこの弁当、美味しくはないんすよ。でも懐かしくてつい毎日買っちゃうんです」
彼は目を潤ませながら話してくれた。そんなことがあったなんて知らなかった私は、ズケズケと彼の健康を考えていらないことを言ってしまったようだ。彼は亡くなったお母さんの味を懐かしんで弁当を買いに来ていた。それが美味しくなくても、自分のお金で買って食べる。だとしたら彼に大事な話をしてあげなきゃだ。
「そうなのね。ごめんね言いたくないこと言わして」
「いえ。大丈夫です」
彼は黙々と美味しくない弁当を頬張る。その姿を見つめながら私は彼に伝える。
「あの弁当屋ね、もう来月で無くなるの」
私もつい先日知った話。店長が苦しいながらも長らく続けてきた店だが、とうとうピリオドを打つことになった。まだお客には伝えてもいないことだ。
彼はこの話を聞いてどう感じるだろうか?悲しむ?それとも怒る?大事なお店が無くなると知ったらきっとそういう感情が起こるだろう。私はそう思いながら、恐る恐る彼の表情を覗いた。
そこには何故か微笑んでいる彼がいた。
「そうですか。僕が毎日買ったところで支えにはさすがになりませんよね」
「そんなことないわ。あんたが買ってくれたおかげで、今日までやってこれたのよ?」
大袈裟に言ったもののあながち嘘ではない。それほど弁当屋にはお客が来なかった。それを聞いた彼は弁当を綺麗に食べ片付ける。そしてベンチから立ち上がり、彼は私に告げる。
「やっぱり美味しくないですよ。でも僕はこの味が好きです。母ちゃんと一緒に食べた思い出が味わえるから。だから最後の日まで通いますね」
彼は私をベンチに置いて帰っていく。彼の背中はどこか寂しく見えるが、覇気があるようにも見えた。


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このストーリーに関するコメント

17/12/08 のりのりこ

おばさんと若者の会話している姿が目に浮かんできました。とても温かく優しさが詰まった好きな作品です。

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