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蓮華さん

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譲れぬおもい

17/12/08 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:0件 蓮華 閲覧数:67

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 女は、静かに目を閉じた。

 ざわめき。
 これは一体何のざわめき。
 夕暮れを寂しくおもい鳴くカラスか、草木を揺らし撫で上げ空に、けして見えぬ姿の代わりに残していった風の声か。それとも、自分自身の心のざわめきか。
 でも、そのざわめきさえも消える。
 音が、聴こえた。一定に打つ音が。
 ドクンドクンと何故か懐かしく落ち着くその音は、彼の中から聴こえる。
 私の中からも、その音は聴こえた。
 だけど、彼の中から聴こえる音は私の音よりも暖かくて心地が良い。
 時間が緩やかに流れていく。
 何もかも忘れてしまいそう……
 忘れてしまいたい。
 でも忘れられない。
 彼と一緒に倒れた時、私は気づいてしまったから。きっともう後戻りは出来ない。
 これからが始まりなのだと……

 男は、静かに目を閉じた。

 囁き。
 これは一体何の囁きだろう。
 静まり返った空に響く夜を待ちわびたものたちの声か、その夜の訪れの為、身を引く様に落ちていく夕陽が残した切なさか。それとも、俺自身が奥底にしまい込んだ心の囁きか。
 でも、その囁きも消える。
 匂いが、した。
 優しい香りが。
 何故か懐かしく、とても落ち着ち付く香りが君からする。
 ただ、もっとも好む香りが俺から消えた。
 だけど、代わりに君の香りが俺を包む。
 時間が止まってしまったら、どんなにいいだろう。
 このまま止まってしまえばいい。
 戻らない過去ならば……
 先に進むことさえ拒む未来なら……
 でも、時間は無情に変わり行く。
 人の心と同じ様に。
 君と一緒に倒れた時、俺は気づいてしまった。
 一度過ぎた過去は、もう戻らないという事を。
 全ては終わってしまったのだと……

 二人は、見ていた。
 自分達が倒れるている最中、何よりも大事なそれらは手から離れ、まるで踊るように取り残されるアイスを。
 行かないで、と二人は願った。
 しかし、時が止まる事がないようにアイスもまた重力に逆らう事なく落下は止まらない。
 悲劇。
 音もなく無惨にも散り、そして二人の心もアイスように散った秋の切ない夕暮れ。


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