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伊川 佑介さん

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懸賞小説中毒者

17/12/08 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:0件 伊川 佑介 閲覧数:59

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「先月のことだよ。もう、いよいよ忍耐にも限界が来たと言うか、ほとほと呆れ果ててね。人間ですよ、人間。こんなに俗悪な生きもの他にいる? もうこれは一緒にやってけないと思って、ひとりで月に旅立ったの。世の中には社会を恨んで、誰かれ構わず無差別に攻撃する人もいるでしょ。でも私は傷つけたくなかった。だから月へ飛んだんです。誰もいない星で、一からやり直そうと思ってね。だけど着いて半日もしたら、妙に寂しくなってきて。あれほど憎んでいた人間が、無性に恋しくなったんです。砂丘の上に座りながら、ぼおっと地球を眺めて、郷愁に駆られてね。正直言うと女性です。男は別に死のうが消えようがどうでもいいんだけども、やっぱり私もオスだから、女性が恋しくなって。『僕には女がないのです』って中也の詩の一節にあるでしょう? 冬の夜。あの詩がスーッと沁みてきたんだな。だから手紙を書いたの。ラブレター。別に人間の女なら外国人でも、ババアでも、ブスでもデブでも何でもいい。とにかく女に届いて欲しいと思って、紙飛行機にして地球に向けて飛ばしたの。でも幾ら待ってもこれ、返事が来ないんだ。二週間くらいは待ったかな。全然来ない。さすがに私も待ちわびて、砂で土偶を作ることにしてね。こう、分かるでしょう? 丸っこい、女性らしい形にして。それでその土偶の横にね、そっと添い寝してみたんです。涙が止まらなかった。余計に寂しくなってしまった。でももうこれしか孤独を癒す道はないと思って、自分を洗脳してね。この土偶は人間だ、人間の女性だと思って。この人を一生愛していこう、添い遂げようと思ったの。その時、風が吹いて。サーって私の奥さん、その土偶が、みるみる崩れて飛んでいくんだ。飛ばないように必死に押さえて、飛んでった砂をかき集めたんだけど、ついにそれ、跡形もなく無くなりました。もう私、悲嘆にくれて、これ以上出ないんじゃないかってくらい涙を流して。でも同じ風に乗って、ふっと眼の前に来たんだ。返事が。また紙飛行機の形で地球から手紙が来たんです。開けてみると丁寧で繊細な文字でね、これは女性の文字だって一瞬で分かった。中身はまあ、『お手紙ありがとう。私は月には行けないから期待には添えないけど、気持ちは嬉しい』って、簡単なものよ。でも嬉しくてね、これは帰らなくちゃ、と思って急いで地球に戻ってきたの。でも差出人がないもんだから、地球のどこに行けばいいか分からない。だからこうして路上で寝泊りしながら行き交う女を眺めて。あの娘かな、もしくはあの娘かな、なんて妄想を膨らませてるの」

 悲劇のネタが浮かばないので先日公園で知り合ったホームレスの鴨志田さんに彼の身に起こった悲劇について聞いてみたのだが、このような嘘を言うばかりで埒が開かなかった。ホームレスに身をやつすまでにきっと何か悲劇的なストーリーがあると思ったのだが、やはり個人的な深い事情についてはそう簡単に他人に話す事でもないのだろうか。仕方がないので僕は再度、自分がこれまでに経験した悲劇について考えた。脳梁を幾ら絞っても、やはり何も浮かんで来ない。かと言って自分の経験外からいいかげんな話を作っても、それはそれでリアリティに欠けるのだ。ふと、目の前をいい女が通り過ぎて、ヘルス貯金について思い出した。半年ほど前からしている目標二万円の貯金である。一食抜いて貯金して、貯まったらファッションヘルスに行こうと思っているのだが、いかんせん貧乏人ゆえ中々貯まらずにいる。保険だの税金だのですぐ減ってしまうのだ。でも考えてみれば、これは貧乏人の悲劇と言えるかもしれない。さすがにヘルス貯金では削除対象になる可能性があるので、病気の妹を救う為に食事を抜いて貯金する男の悲哀にでもするか。しかしこれもやはりリアリティがないと言うのは、我が国には生活保護とか高額療養費制度というのがあって、貧乏人が取られる治療費にも限度があるのだ。すると他の悲劇にしなければいけないが、うーん、これはどうしたものかなーって、…ゲホッ、ゲホッ。血だ。今、咳で血を吐き出した。初めての経験である。これは胃潰瘍だろうか。もしくは胃癌? ゲホッ、ゲホッ。凄い血の量だ。これはもはや悲劇。ようやくリアリティのある悲劇が書けそうである。もしかすると受賞して五千円? そしたらヘルス貯金も優に二万円を突破して……ムッフッフッフ。それでお店に行って、ムッフッフッ…グゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!


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