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小峰綾子さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 笑う門には福来る

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弁当に関わる彼女の思い出

17/12/07 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 小峰綾子 閲覧数:62

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目覚めたら彼女からラインが届いていた。「昨日はごめんなさい。聞いてほしい話があります」
昨日は、紅葉がピークだったので公園を散歩していた。陽が落ち始めると風が冷たくなってきたので、もう少し歩いたらカフェにでも入ろうか、という話をしていた。

そこで俺は「春になったらピクニックみたいな感じでもいいな。弁当作ってよ」とふと言ったのだが、あれ以降彼女の様子が少しおかしかった。怒っているわけではないし、会話は普通なのだが、元気がないというか、ぼんやりしているというか。
「俺、何かいけないこと言った?」
「ううん、そんなことない」
得に理由も教えてもらえないまま、早い時間に解散となった。

その日の夜、付き合う前に一度二人で行った創作居酒屋で待ち合わせをした。向こうは10分ほど早くついていたようだ。

「ごめんね。私、お弁当にいい思い出が何もなくて、いろいろ思い出しちゃったの」
「弁当に関して?」
「そう」

弁当に関して特に思い入れのない俺には想像がつかなかったが、とりあえず彼女の話を聞くことにした。

彼女の母親は、子供に食べさせる物は良いものをと、かなりこだわる人だったそうだ。もちろん、毎日手の込んだお弁当を作って持たせることも愛情の表現の仕方の一つだった。
今日は友達と一緒にパンを買う約束をしたから、または部活で遠征に行くからおにぎりだけでいい、と言うと不機嫌になる、ということも良くあった。かなり手のこんだ彼女の弁当を見られ、クラスメイトにからかわれることがあった。彼女は一度だけ「見られるのが恥ずかしいからもう少し簡単なものにして」と言ったことがあるのだが、「どんな気持ちで私がお弁当を作ってると思ってるの」と言ってヒステリックになり、泣いたと。

「もう、めんどくさいからお弁当に関して何か言うことは途中でやめたけど。思春期の時期って母親の言うことを素直に聞けなかったりするじゃない?だからわざわざお弁当の中身をゴミ箱に捨てて、パンを買ったこともあって。お母さんが、愛情を注いでくれていたのは間違いないんだけどね。」
「無理にそう思う必要はないんじゃないかな?」
「え」
彼女は意味が分からない様子でこっちを見ている。

「お母さんは君のこと、大切にしてると思ってやってたかもしれないけど、受ける側にとっては的外れだったり、重荷だったってことはよくあるよ。自分には重すぎたって、そう思って生きてていいんじゃないかな」

付き合って2か月だが、彼女はあまり実家のことを話したがらないし、連絡を取り合っている様子も見たことがなかった。特に母親の話に触れるときは途端に緊張気味の表情になるな、とは思っていた。

「私、そしてね、そんなお母さんが嫌い、いやだと思って生きてきたのに、結局育てられたようにしかなれなかったな、とも思うの」

彼女の弁当に関する話はまだあった、

元彼が、彼女が作ってきた弁当をことごとくけなしたのだ。

「2年前ぐらいまで付き合ってた人なんだけど、あの時私も20歳そこそこで、まだそれほど料理もできなかったけど、それでも見よう見まねで作ったんだよね。でも、卵焼きには味がない、唐揚げもいまいちとか、彩りが、とか」

「ありえねぇな、そいつ。普通どんなまずくたってほめるだろ。おいしいって言って食べるだろ。」

彼女はキョトンとしている

「いや実際まずいのかうまいのか知らないけど。そういう意味じゃなくて」

「私も、お母さんと一緒で、お弁当箱にさ、彼への思いとか気持ちとかを詰めることが愛情だと思ってたんだよね。だから、あの時はあり得ないぐらい落ち込んだし彼への気持ちも否定されたと思ったんだよね。」
「そんな駄目なやつと付き合ってたこと自体、親の呪縛なのかも」

そのあたりで料理が運ばれてきた。
「この卵焼き、おいしい」
「こっちのお好み焼きも」
「結局、食べるものなんて舌を通って胃袋に入るだけなのになあ」
「でも、どうせならおいしいほうがいい」
「あ、ちなみに俺は別に弁当作ってきてくれるのが愛情だとは思ってないから。その辺で買ったっていいし、何なら俺が作ってもいい、味の保証は全くないけどな」

とりあえず、笑いながら、うまいうまい、と言いながらその日もたくさん飲んで食べた。

結局、彼女の作る料理は普通に文句なく上手いということがその後約1か月後に判明するのだが、実際それはただの結果だ。料理を作って、うまいといいながら食べる、一緒に食べる誰かもおいしいと言う。それは実際楽しいし幸せなことだ。ただ、それが誰かに愛情だと言って押し付けたり、愛情の深さのバロメーターだと思い込み始めると互いにしんどくなる。

彼女の作ったカレーを3杯食べ、山盛りのサラダも食べた。

来週は彼女が作った弁当と熱いお茶をもってハイキングに行く予定だ。


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