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新成 成之さん

 趣味で短編を書いている大学生です。ちょっと奇妙な物語を書きます。  特に好きな作家は、太宰治です。  理系の人間ですが、一人でも多くの人が面白いと思ってもらえるような物語を書きます。

性別 男性
将来の夢 教員
座右の銘 臨機応変

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忘れることのない味

17/12/07 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 新成 成之 閲覧数:172

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 時刻は十二時を周り、皆が仕事の手を止め、昼休みになった。
 俺は鞄からステンレス製のお弁当箱を取り出すと、ゆっくりとその蓋を外す。中には唐揚げやポテトサラダ。ほうれん草の胡麻和え等、俺の好きなおかずが詰められている。
「いただきます」
 両手を合わせてそれらを頂く。ほんのり温かいそのお弁当は、俺の心を暖めてくれる。

 一週間前の事だ。一つ上の先輩である世良さんにこのお弁当箱を貰った。
「平林君、最近ご飯ちゃんと食べてないでしょ?良かったらこれ使って」
 そう言って世良さんが俺に渡したのが、このステンレス製のお弁当箱だ。その時は、俺の為にお弁当を作ってきてくれたのかと舞い上がってしまったが、蓋を外すとそこにはご飯粒一つとして在りはしなかった。
「あの・・・世良さん?これは一体・・・?」
「これね、不思議なお弁当箱でね。「こんなお弁当を食べたいな」って考えてると、お昼の時間になると、思ってたメニューがそのお弁当箱に入ってるの。凄いでしょ!」
 うちの会社の高嶺の花である世良さんだが、この時は本気でこの人を不思議ちゃんだと思ってしまった。
「私も他の人から貰った物なんだけど、今は平林君に使ってもらった方が良いかなって思ったから」
 自分の仕事もろくに片付けられず、日常生活まで疎かになっていた俺に、世良さんは慈悲を与えてくれたのだ。まるで菩薩の様な女性だ。
「ありがとうございます。あの、でも、その話、本当なんですか・・・?」
 俺の為を思ってこのお弁当箱を渡してくれた訳だが、普通に考えて「食べたいメニューが入っているお弁当箱」なんて、そんな物有り得るはずがない。
「嘘だと思うでしょ?でもこれが本当なんだよ。騙されたと思って使ってみて」
 こうして、俺はこの不思議なお弁当箱を毎日持ち歩くようになった。

 「平林君。明日のプレゼン資料出来てる?」
 弊社のジャンパーを羽織った薄毛の上司が俺の所に来るとそう言った。背中のロゴが悲しくなるほど引き伸ばされている。
「それなら、今出来たところです。って、あれ?」
 それまで作業が出来ていたパソコンが掌を返したように、ビクとも反応しなくなってしまった。
「ちょっと平林君。大丈夫なのかい?明日のプレゼンはあの企業との合同イベントのプレゼンなんだよ?その資料が、出来てないとかなったら、分かってるよね?」
「わ、分かってます・・・」
「とにかく、ちゃんと用意しておいてね」
 そう言って潰れたロゴは自分のデスクに戻って行った。俺は直ぐ様マウスをカチャカチャと動かす。しかし、拗ねた相棒は顔色一つ変えてくれない。
「嘘だろ・・・」
 俺はあらゆる手段で御機嫌を取ろうと努力するが、完全にへそを曲げたのか、突然心を閉ざしてしまった。そして、昼休みを迎える。
 自分の顔の映るモニターを前にし、俺が今食べたいと思っていたお弁当を食べながら、必死に相棒を起こそうとする。その願いが届いたのか、遂に相棒が目を覚ました。
「おいおい・・・嘘だと言ってくれ・・・」
 しかし、最悪の事態が発生した。やっとの思いで完成させたプレゼン資料のデータが綺麗さっぱり消えていたのだ。俺は何とかしようとデータの復元を試みるが、不運なことに、データが存在していなかったことになっていた。つまり、俺のこれまでの苦労は、こいつの気まぐれのせいで水の泡と化したのだ。

 残業をし、いつもより早めに出勤をして、やっとの思いで資料を一から作り上げた。こんなに頑張ったのは高校時代の部活動以来だ。
「いやあ、ありがとうね平林君。何とか資料間に合ったね」
 それだけ言うと、潰れたロゴは俺からデータを貰うとデスクに戻って行った。
「最初から自分でやれよ」
 俺は聞こえない様に小さく愚痴をこぼす。
 
 その日の昼休み。食欲は無かったが、あのお弁当箱を開いた。そこには、俺の大好物のハンバーグが入っていた。お店で食べられる様な、ジューシーなものではない。少しパサついた、肉団子の様な手作りのハンバーグ。
「懐かしいなこの味」
 部活動の大会の日のお弁当には、必ずこのハンバーグが入っていた。頑張ったご褒美として母が入れてくれていたのだ。朝早くから挽き肉を捏ねて、フライパンで焼いていた姿を思い出す。
「今の俺は、頑張れてるかな?」
 窓の外から見える青空に向かって、小さく呟いた。

 俺が食べたいと思っているお弁当。それは、何時だって二度と会えない母の手作り弁当だ。


 


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