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皇 藍羅さん

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僕と彼女と、弁当と

17/12/05 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 皇 藍羅 閲覧数:180

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目覚まし時計が鳴る十分前、僕はある音で目覚める。まだぼんやりとしている頭を覚醒させたのは、炊きたての白米の匂いと包丁のリズミカルな音。
僕の名前は長谷川達也。中小企業で働く至って普通のサラリーマンだ。
冬真っ只中の肌を刺すような寒さに身を縮こませながら温い布団から出ると、その音と匂いの発生源であるキッチンに向かう。
「おはよう」
「あれ、達也くん。朝早いね?まだ寝てても良かったんだよ?」
キッチンで包丁を握るのは、僕の同棲している恋人である宮下茜。もう付き合って五年、同棲を始めて三年になる。彼女のご飯を作る音は僕にとっての最高の目覚まし替わりになっている事を彼女は恐らく知らないだろう。
「良いんだよ、目が覚めちゃってさ。手伝うよ」
手伝おうと思い手を洗おうとすると茜は手で制して、
「達也くんは今からお仕事に行くんだから、ご飯ができるまで待っててください」と、ふわりと微笑んで言うと僕をリビングにあるソファに誘導して座らせる。
彼女は良い子なのだが、変なところで頑固だ。だが、そこが良い所でもある。
包丁の音を聴きながら僕は彼女と付き合い始めた頃の事を思い返していた。
出会いは高校の頃だった。サッカー部に所属していた僕はマネージャーとして入部してきた彼女と出会い部活を通じて話すようになり、友好的な好きから、恋慕感情の好きに変わっていくのに時間はそんなに掛からなかった。
そんなある日の休日、僕は茜とデートをする事になった。公園を散歩して買い物をするという日常に溶け込むような特別なものでは無かったけど、僕にとってはこれでもかという程楽しみだった。
「長谷川先輩。お弁当を作って来たんです。良かったら食べてくれますか?」
お昼時、公園のベンチに座った僕達だったが茜が差し出したのはキャラクター物の布に包まれたお弁当箱だった。そして、それを持つ彼女の指先には沢山の絆創膏が貼られていた。
「ありがとう。もちろん頂くよ」
そう彼女にお礼の言葉を告げ、弁当箱の蓋を開ける。その中にはお世辞にも綺麗とは言えないおかず達が並んでいた。
「私、不器用でお弁当作るの苦手で⋯⋯。下手くそでごめんなさい⋯⋯」
僕は彼女のその言葉を聴き流しながら、「いただきます」と言ってそのお弁当を口に入れる。
これだけ指を怪我をしてまで僕のためだけにお弁当を作って来てくれたのだ。その事実だけで十分で、それだけで最高の弁当だった。
「茜が僕のために作ってくれたんだ。それだけで嬉しいし、美味しく感じるよ」
僕はなかなか言えないような恥ずかしい一言を言うと、「⋯⋯僕は茜が恋愛的な意味で好きなんだけど、茜は僕の事どう想う?」
僕が茜に向かってそう言うと、茜は頬を真っ赤に染めてコクリと頷いた。ついに泣き出してしまった茜に戸惑い、涙を袖で拭ってその濡れた頬に口付けを一つ。初めてのキスはしょっぱかった。これが僕たちの恋人ととしてのスタート地点となった。
「達也くん。ご飯出来たよ」
ぼんやりとした意識を戻してくれたのは紛れもない茜の声。その姿を見て、僕は笑みを抑えきれなくなる。
「何か良い事でもあった?」
「茜に告白した日の事を思い出してた」
少し意地悪に笑って言うと彼女の頬が真っ赤に染まり、唇を尖らせて視線を泳がす。
「恥ずかしい事思い出さないでよ⋯⋯。あの頃、本当にご飯作るの下手くそだったんだから⋯⋯」
「茜が俺のために怪我してまで作ってくれたんだぞ?それが美味くない訳が無い」
僕は茜の頭を撫でて「僕は茜が作ったご飯が一番好きだ」と言うと、彼女は「⋯⋯おだてても何も出ないよ?」と、はにかむ。
僕は彼女のこの笑顔を守りたい、そう思った。そして、僕は心の奥底である決意を固める。
「達也くん?」
「うん?」
「今、笑う様な所あった?」
「ううん。ちょっと思い出し笑いしただけ」
僕がそう言うと茜はきょとんとした表情になったが、僕は「冷めちゃうからご飯を食べよう」と言って誤魔化した。
今日の仕事が終わったら少しだけ寄り道をしよう。そして、来月の彼女の誕生日にキラキラ輝く誓いの証をその僕のためにご飯を作ってくれる優しい左手の薬指に付けてあげよう。そしてこう言うんだ。

「これからも僕のお嫁さんとして僕にご飯を作ってください」と。


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